2022 Fiscal Year Research-status Report
Study of modern China/Japan images by cross-border Chinese female authors: focusing on Ling Shuhua
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22K00370
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
阿部 沙織 立命館大学, 言語教育センター, 嘱託講師 (20822745)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 凌叔華 / 華人女性作家 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、本研究の重点のひとつである、作家の凌叔華と松岡洋右の交流についての調査・研究を主に行った。両人の関係について日本側資料から明らかにすべく、光市文化センター、国会図書館憲政資料室(満鉄会旧蔵資料)、東洋文庫にて関連資料を調査した。直接関係を裏付ける資料にはたどり着けなかったものの、両人の通信に深く関与していたとみられる人物の一人、満鉄北京公所主任(当時)牛島吉郎についてその経歴や著作物を確認することができた。23年度も引き続き、このような周辺人物から凌・松岡の関係を調査する計画である。 また22年度には、陳烈『雙佳樓往事;時代風雲中的陳西瀅與凌叔華』(中華書局(香港)有限公司、2021年)で公開された松岡の凌宛て書簡の内容をふまえた上で、凌叔華が日本占領下の北平を描いた作品「中国児女」について初歩的な考察を行い、お茶の水女子大学中国文学会12月例会にて「凌叔華『中華児女』の日本人表象を再読する:松岡洋右との交流を参照軸として」と題する口頭発表を行った。 1942年発表の「中華児女」については、これまでも作中の日本人憲兵にモデルが存在する可能性が示唆されていたが、作者と日本人との具体的な関係をふまえての作品の再読はこれまでとは異なる解釈を可能にするものである。日本人憲兵の望郷の念や親子の情を描いた部分は従来、戦時下においても作家の博愛主義が発露されたと指摘されていたが、1939-40年に北京に滞在していた凌叔華が松岡洋右の部下複数名からの庇護を受けていたことを示す書簡と照らし、この日本人表象には松岡やその周辺の日本人の実像が反映されていたであろうことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年目である2022年度より中国・北京へ赴いての資料調査を計画していたが、コロナ禍による中国への入国規制が予想より長引き、渡航はかなわず日本側資料の調査に留まった。 また、2022年度は凌叔華と松岡洋右の関係について明らかにすべく日本国内の資料調査から研究に着手したが、当初の予測よりも具体的成果を挙げることが難しく、周辺人物の調査へと方向性を切り替えたため資料調査に割く時間が増加した。このことにより、22年度に計画していた華人女性作家の作品群の精読については進捗が遅れてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度は、22年度に行った口頭発表を論文として発表する予定である。可能であれば中国に渡航し、松岡洋右の凌叔華宛て書簡について、未公刊部分の閲覧・調査を目指したい。 また23年度は凌叔華関連資料調査に加え、1911年に中国人女性として初めて英語で自叙伝を発表したとされる徳齢とその著作について、当時の中国語への翻訳状況や女性作家への影響について調査・研究を進めることで、華人女性作家の系譜について検討する。
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Causes of Carryover |
2022年度は新型コロナウィルス感染症の影響により出張回数が計画よりも減少し、そのため次年度使用額が生じた。23年度は計画通りの出張が行えると予想しており、当該額を使用したい。
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