2022 Fiscal Year Research-status Report
A Stuidy on J. R. R. Tolkien's Creative Process of The Homecoming of Beorhtnoth, Beorhthelm's Son
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22K00376
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
伊藤 盡 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (80338011)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | J. R. R. トールキン / 『ベオルフトヘルムの息子ベオルフトノスの帰還』 / 古英詩『モールドンの戦い』 / Tolkien Studies / The Battle of Maldon / Beorhtnoth / 中世主義 / Medievalism |
Outline of Annual Research Achievements |
・2022年8月13日から20日まで、オクスフォードに滞在し、オクスフォード大学ウェストン図書館所蔵のJ. R. R. トールキンの手稿調査を行った。先ず、本研究課題の主目的である『ベオルフトヘルムの息子ベオルフトノスの帰還』(以下『帰還』と略記)の草稿すべてのデータの収集に努め、その成果としてMS Tolkien 5におけるfols.1-73の手稿閲覧と文字起こし用のデータ保存を行った。タイプ原稿は閲覧はできたが、データの記録を取るには1週間の滞在では不可能であった。この結果、判読不能の箇所を残し、判読可能箇所の文字起こしの原データの作成が可能となった。 ・また、『帰還』のインスピレーションの源泉である古英詩『モールドンの戦い』(以下『モールドン』と略記)のための講義ノートの手稿の閲覧も行った。特に『モールドン』現代語散文訳と古英詩解釈の註のデータを集めた。 ・この調査結果によって、①トールキンの執筆過程を俯瞰的に把握できること、②古英詩の解釈としての現代英語訳と、戯曲作品の中の現代英語表現の比較照合を可能にしたという意義と持つ。この結果はまた、『モールドン』を用いて大学内での教育にどのようにトールキンが活かしたかを考察する出発点となるため、古英詩研究の社会への還元方法を見つけるための重要な参考資料となる。 ・また、手稿に書かれた年代附記('1932')から、この研究成果は科研費申請時には視野に入らなかった、トールキンの1930年代の研究教育活動を視野に入れることを可能にした。これはトールキン研究の観点からも、先行研究では触れられていなかった部分を埋める意義を持ち、今後の研究の発展に結びつく可能性を示唆するという点で極めて重要な成果である。特に評論社から出版された『指輪物語』最新版編集に大きく寄与した。 ・この成果は2023年度日本中世英語英文学会にて発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、渡英による資料調査は2回行う筈だったが、円安と欧州の物価高騰のため、年間予算では一度の往復しかできなかった。また、現地でのデータ確認時に気づかなかった、不良データが帰国してから見つかり、調査資料に一部欠損が生じてしまった。 しかし、当初の計画にあったとおり、『帰還』の手稿データ自体は、判読不能箇所を除いて、活字化を充分に可能とするデータの保存ができたことは、遅れている中にあっても研究全体は計画に沿って進んでいると言える。来年度以降の資料調査を充実させたものとするためにも、渡英前の資料の精査と整理に時間を充分にとる必要が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
円安と欧州の物価高騰は、予算の枠組みで期間内に十全な資料調査ができるか不確かであるため、できる限り、既に入手、保存したデータに基づく研究成果発表を重ね、研究の継続を内外に知らしめて行く。特に、本研究と類似の研究が米国で行われているという情報が2023年5月にあり、本研究の中間的な発表を行う必要が如実になった。 英国リーズ大学図書館と米国マーケット大学図書館での資料調査の期間をなるべく短くし、内外の研究者との情報交換を頻繁に行うべく努める必要がある。 今年度は、不良データの修正をするために夏にオクスフォード大学ウェストン図書館を再度訪れてデータ収集をするが、特にトールキンの講演ノートには、『モールドン』の解釈について、これまで未発表の内容を含むことが予見されているため、慎重にデータを集める予定である。そのためにも、既に保存したデータの精緻な分析を渡英前に行う必要がある。 予算的に可能であれば、冬から春にかけて、リーズ大学図書館での資料調査を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
円安と欧州の物価高騰の影響から、今年度予算内での二度の渡英による資料調査が実施できず、それを補完するために書籍資料の購入と国内学会出張費に当てた。そのため、当初予定していた利用予算額を下回り、次年度に繰り越し、次年度の出張費を充当することにしたため。
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