2022 Fiscal Year Research-status Report
1642年から1685年における、印刷本と手稿を中心としたソロモン王の表象
Project/Area Number |
22K00382
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
笹川 渉 青山学院大学, 文学部, 教授 (10552317)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | スチュアート朝 / ソロモン王 / 王党派 / 手稿 / 詩集 / 初期近代イングランド |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究実績は以下の3点である。まず、17世紀に流布した旧約聖書『雅歌』の意訳である、George SandysによるA Paraphrase upon the Song of Solomonの政治性を考察した点である。この書籍は、1641年版と1642年版は作品のみが収められていたが、1676年版のA Paraphrase upon the Divine Poemsに収められたテクストではその前にチャールズ1世とその王妃ヘンリエッタ・マリアに捧げられた献呈詩が掲げられている。つまり、この献呈詩により、『雅歌』を国王と王妃を讃えるものとして読むことをうながす一種のパラテクストとして機能していることがわかる。同様の機能は、1648年版のA Paraphrase upon the Divine Poemsにも見られ、内乱期において議会派の優勢が明白な時点にあって、文学テクストが国王と女王を賛美する働きを担っていることを明らかにしている。 2点目は、A Paraphrase upon the Song of Solomonを手稿に筆記したものとして、オックスフォード大学ボドリアン図書館所蔵の手稿MS Rael poet 153を調査できたことである。1640年代に作成されたとされるこの手稿には、筆記された作品群に王党派的な特徴が見られることから、国王をソロモン王としてとらえる傾向が1640年代にも見られたことが伺えた。 3点目としては、イングランド国王をソロモン王に模した、17世紀の刺繍のコレクションをアシュモリアン博物館で調査できたことである。当時刺繍された『ソロモンの審判』はソロモン王をジェームズ1世、チャールズ1世、チャールズ2世をイメージして作成されたものである。 以上3点の調査を進める過程で得た資料を用い、1点の論文の執筆に役立てることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題について、当該年度は国王が権力を失いつつあった内乱期から国王不在の共和制下と護国卿下(1642年から1659年)における、ソロモン王の文学および視覚資料での表象を調査することを計画していた。収集した資料を援用した1本の論文を公表することができたが、新型コロナウイルス感染拡大のため、海外の研究機関での予定していた資料調査をおこなうことができなかったため、進捗状況はやや遅れている。 しかし、研究代表者がおこなっている他の研究課題遂行のために訪れた研究機関で、当初の研究計画に沿った資料を一部調査することができた。旧約聖書の『雅歌』について、George Sandysによる「意訳」が手稿に筆記された例として、オックスフォード大学ボドリアン図書館所蔵の手稿MS Rawl. poet. 153 について調査できたことは収穫であった。また、令和5年度の研究計画で調査を予定していたオックスフォードのアシュモリアン博物館所蔵の17世紀の工芸品に刺繍されたソロモン王やシバの女王の表象を通じてチャールズ1世や王妃ヘンリエッタ・マリアを確認することができた点では、本来の計画より進めることができたと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
当該年度は内乱期から王政復古にかけての文学作品および視覚資料でソロモン王の表象を研究する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、計画していた海外研究機関での手稿の調査を十分に実施することができなかった。そのため、令和5年度は調査を予定していた大英図書館所蔵Sloane MS 1009, Lansdowne MS 489や、オックスフォード大学ボドリアン図書館所蔵MS e. Mus. 201などの資料を参照し、王政復古期以前になされた『雅歌』の受容を調査する。あわせて王政復古期以降にチャールズ2世をソロモン王として描いた例としてThomas FullerやSamuel Smythの文献、手稿での受容の例として大英図書館所蔵Add. MS 37719などを参照しながら、ソロモン王表象の多様性を考察する。 加えて、当該年度に調査したアシュモリアン博物館所蔵の工芸品に見られるソロモン王の表象は、17世紀を通じて国王をソロモン王と同一視して賛美することが初期近代において一般的であったことを示す証拠であることがわかった。国王賛美をおこなう際にソロモン王を強調する理由のひとつは、先行研究でも明らかにされているように、ジュネーヴ聖書でのソロモン王への注によるが、スチュアート朝の王権神授説により強化されたこの考えについての研究をさらに深化させる。 その一方で議会派による国王批判は、王党派によって讃えられたソロモン王への批判に見ることができる。例えば、議会派のミルトンはソロモン王を道徳的に堕落して、偶像崇拝に陥ったと批判するが、これは国王チャールズを念頭に置いていた証拠として考えられる。先行研究ではミルトン以外のソロモン王批判が十分に検証されているとは言い難いため、反ソロモン王表象の検証をおこなう。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大により海外渡航ができず、旅費として使用する予定であった経費を使用できなかった。次年度は資料調査のための旅費として使用する。他に研究遂行のための図書資料の購入を予定している。
|