2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Camp and Parody in American Drama
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22K00396
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
古木 圭子 奈良大学, 文学部, 教授 (80259738)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | キャンプ / パロディ / ジェンダーパフォーマンス / 演劇における詩的想像力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、Tennessee Williams (1911-1983)、Edward Albee (1928-2016)の戯曲を中心に、アメリカ演劇におけるキャンプおよびパロディの要素とセクシュアリティ、ジェンダーの関係を明らかにすることである。先行研究においては、Tennessee WilliamsのA Streetcar Named Desire (1947)のBlanche、Edward AlbeeのWho’s Afraid of Virginia Woolf (1961) のMarthaを始めとする女性主人公たちは、誇張された身振りや言葉遣いにキャンプの要素が顕著であり、そのために「本物の」女性らしくないと評されてきた。しかし、芝居がかることが「本物の」女性から逸脱する要素だとしたら、そもそも芝居における女性の描写をどのように捉えるべきであろうか。本研究はその疑問を出発点とした。 2022年度においては、Streetcarと、2021年度に発表されたWilliamsの未完詩”Kicks”におけるBlanche像の比較分析を行った。”Kicks”は、Blancheがレイプ事件の「被害者」として、Streetcarにおいて敵対したStanleyを新たに告発するという内容を含む。さらに進化論の議論を白熱させたスコープス裁判を担当した弁護士Clarence Darrowの名が挙げられ、Blancheが人間の「進化」について論じながら、Stanleyの野蛮さを批判する『欲望』の場面を想起させる。しかし本作品には,Blancheが夫Alanを死に追いやったという残虐性にも焦点が当てられ、Streetcarでは強調されていた「敗者」の美が弱化され、パロディの要素が色濃くなっている。そのような点から、劇と詩というジャンルを超えた作品間の「対話」的要素について分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度には当初予定していた海外出張は実現できなかったが、資料の収集等も含め、研究は概ね順調に進んでいる。Williamsの詩”Kicks”の分析を進めることで、それまでの研究において捉えてきたA Streetcar Named DesireにおけるBlanche像およびそのキャンプ的要素,さらに詩的想像力という要素との関係に関して、新たな側面を見出すことができた。本研究成果は、所属する英米文化学会において研究発表という形で発表し、2023年度内に共著として発表する予定である。 さらに”Kick”の分析を進めることで、Williamsと著名な弁護士Clarence Darrowとの関係、DarrowとBlancheの共通点についても考察を進めた。先行研究において、John S. Bakは、その論理性と「計算され」、「的を射た」尋問の様子から、DarrowとStanleyの共通点を見出しているが、Darrow個人の信条については、StanleyよりもBlancheに近いのではないかと思われる。彼が最も敵意を抱いていたのは「盲目的な楽観主義」であり、その結果「無益論者」「悲観主義者」として非難されたという面を持つと述べる。これは、自身を「弱い(soft)」と呼び、亡き夫の影を引きずり続け、罪の意識から逃れられていないBlancheと共通する。DarrowとBlancheのこのような性質は、「この世で生存競争に勝ちぬくには、自分がラッキーだと信じることだ」と豪語する「楽観主義者」Stanleyとは、根本的に異なると思われる。以上のように、Blancheの多面性をWilliamsの詩作品に見出し、Darrowとの関係から劇作家自身の法への関心、およびDarrowの文学者としての側面についても分析を進め、本研究の重要な起点となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画においては、Williamsの詩的想像力とジェンダーの関係に関する考察をさらに進めると共に、劇作家間および作品間の対話という要素について考察を行う。WilliamsがStreetcarの「後日談」として”Kicks”を捜索したこともその一例であると考えられる。 さらに、キャンプの持つ誇張や人工性が、アメリカ演劇の女性登場人物を通して時に笑いや自虐性を引き起こし、それが舞台と観客との対話を引き出す要素となっていることを明らかにする。Blancheの言葉を借りれば、女性登場人物の「嘘」を「誠」に見せようとする誇張、人工性(=キャンプ)は、時に現実の女性とはかけ離れているという批判があるが、それが孤立感と愛情への飢餓の裏返しとすれば、それは彼女らの複雑な内面の具現化であり、ゆえに人間の本質をえぐり出す。それらは、彼女らの生き残りをかけた行動であると共に、活発な精神の活動であり、だからこそ観客の期待に反する意外性を秘め、その裏切りの中に笑いと共に共感が芽生えると思われるので、その点をアメリカ演劇に登場する女性登場人物の分析を通して、今後の研究で明確にしたい。 本研究においては戯曲のテクスト分析と共にパフォーマンス自体の研究も行うため、実際に米国において劇場調査,資料収集を行う必要がある。2023年度には、ニューヨーク公立図書館での資料収集、ブロードウェイ、オフ・ブロードウェイの劇場調査を行い、2024年度には、特にWilliamsの戯曲に関する資料が多く収められているテキサス大学オースティン校のハリー・ランソム・センターにて資料収集を行う計画である。さらに同年には、劇作家を招聘してのシンポジウムを、アジア系アメリカ文学会、日本アメリカ演劇学会などの大会において行う計画である。対面によるシンポジウム、講演が困難な場合には、オンラインを利用しての実施も検討する。
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Causes of Carryover |
2022年度においては,米国ニューヨーク市における資料収集・演劇調査のための出張を2022年8月に予定していたものの、新型コロナウイルスの影響も依然としてあり、大学での授業や業務への影響も考えた結果,予定通りに出張を行うことができなかった。また、国内で開催される所属学会(アメリカ演劇学会、アジア系アメリカ文学会など)の大会、研究会においても、オンラインでの開催が増えたため、国内出張の機会も減少した。しかし2023年度においては、現状から鑑みて、本来は2022年度に予定していた海外出張および国内学会への参加も実現できると考えられる。
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Research Products
(1 results)