2022 Fiscal Year Research-status Report
Possibilities of British Romanticism in the Anthropocene
Project/Area Number |
22K00400
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
アルヴィ なほ子 (宮本なほ子) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20313174)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | イギリスロマン主義 / 人新世 / コウルリッジ / P.B.シェリー / メアリー・シェリー |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年は、Percy Bysshe Shelley(1792-1822)の没後200周年の年であり、世界各地でShelleyやイギリス・ロマン主義の現代的な意義が活発に議論された年であった。本研究では、人新世の区分の中で、Shelleyを中心にイギリス・ロマン主義の文学者たちの自然との向き合い方を検討した。本年度前半では、“Mountain that ‘Walks Abroad.’”という論文をまとめ、Shelleyの没後200周年を記念して詩人が没した日に発行されたEssays in Honour of Percy Bysshe Shelley on the Bicentenary of His Death, 1822-2022 (https://www.gothickeatspress.com/the-mountain-that-walks-abroad GothicKeats Press 2022.7.8)に掲載された。 また、没後200周年記念行事として、イタリアのKeats-Shelley HouseとKeats-Shelley Association of Americaが共同で開催した国際学会の第2部グローバルリーディング“The Triumph of Life: A global reading of The Triumph of Life, Shelley’s last, unfinished poem, in fifteen languages read by readers from twenty-six locations around the world”に日本の代表として参加した。(2022年7月9日にYoutubeで公開された。https://www.youtube.com/watch?v=co8skXffV1I) 後半では、2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、人類の歴史の中での「帝国」の位置づけ、人間が造営した都市の廃墟と自然の関係を検討し、英文学会九州支部第75回大会の特別講演として、「“The lone and level sands stretch far away”――Shelleyと帝国の夢」を発表した。その後、同様の関心を持つ研究者たちと意見交換を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「人新世」(Anthropocene)の時代に、自然に対して「他者」となった人間が地球環境に介入することが引き起こす問題について、18世紀後半から19世紀前半のイギリス・ロマン主義の時代の文学テクストを中心に検討するものである。当該年度は、Percy Bysshe Shelleyの没後200年記念の年にあたり、前半は、Shelleyがいかに無生物としての自然の声を聴いたかに注目して“Mountain that ‘Walks Abroad.’”という論文にまとめた。また、没後200年記念の国際学会において、シェリーが自然にとっての「他者」としての人間存在について深く考察した“The Triumph of Life”のグローバルリーディングに参加した。後半は、人間がその一部であるはずの地球的環境と人間の齟齬を、人間の帝国主義的な拡大志向の点に力点を置いて日本英文学会九州支部の特別講演として発表した。Queen Mabにおけるパルミラの遺跡と“Ozymandias”を中心に、自然の傷跡としての帝国の痕跡について検討し、ロシアによるウクライナ侵攻で改めて浮き彫りとなった「帝国」と地球環境の問題を考察し、特別講演の後、同様の関心を持つ研究者たちと意見交換を行った。 これらの実績を踏まえ、研究は順調に進んでいると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、Percy Bysshe Shelleyの先進的な自然との関わり方を考察したが、2023年度は、PercyのパートナーであったMary Shelleyとの相互影響関係にも注目する。Percyの『解放されたプロメテウス』(Prometheus Unbound)は、Maryの「現代のプロメテウス」という副題を持つ『フランケンシュタイン』(Frankenstein, or the Modern Prometheus)では、自然とも人間とも相容れない人造人間が創造され、人間が居住可能でない過酷な自然環境の中で人間も人間ではないものも滅びてしまう。現代のプロメテウスである科学者が征服の対象と考えた自然を、Percyが主要登場人物の1人である女性のAsiaの口を通して「弱いが美しい」と表現するとき、生物も無生物も包括した地球環境の新たなイメージが提案され、現在も模索されている人間と自然との新たな関係の始まりが見えようとしている。このような観点から、自然環境への人間の侵攻とも言える科学者の自然界の征服、生物と無生物、死と生の関係について、シェリー達の作品、彼らに大きな影響を与えたS.T.Coleridgeのテクストから検討する。その成果の一端をシェリー研究センターの年次大会で発表する予定である。
|