2023 Fiscal Year Research-status Report
Dialectic of Friendship: Individualism and Empathy in 19th-Century American Literature
Project/Area Number |
22K00402
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山口 善成 金沢大学, 国際学系, 教授 (60364139)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | ユートピアニズム / 個人主義 / 共感 / 友情論 / アメリカン・ルネサンス / アソシエイショニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は19世紀アメリカのユートピア共同体事業における友情論、個人主義、共感の文化に関する論考を、前年度の成果報告として学会発表を行った(「共感の倫理--19世紀アメリカのユートピアニズムと権威主義」第39回日本アメリカ文学会中部支部大会、2023年4月22日)。発表内容は同学会の機関誌『中部アメリカ文学』第27号(2024年3月)において、特集記事として掲載されている。また、論集『アメリカ研究の現在地--危機と再生』の合評会にパネル参加する機会を得、そこでも本研究計画に関連し、ネットワークや個人主義をキーワードに近年のアメリカ文学研究およびアメリカ研究の傾向について講評を行った(「19世紀アメリカ文学の「つなぐ営為」--ネットワーク、境界線、個人主義」中・四国アメリカ学会年次大会、2023年11月25日)。内容は同学会の機関誌『中・四国アメリカ研究』第11号(2024年春)に掲載される予定である。 本年度は昨年度に引き続き、大学院科目のトピックとしてユートピア思想や友情論を設定した。中でも、多くのユートピア思想が私有の概念や家族制度の解体を試みてきたことに着目し、そこで提起される共助共有の思想や新しい家族のあり方が持つ文化的な意義ついて議論を行った。この考察は本研究計画最終年度の成果の一部として発表する予定である。 その他、2023年度には文学研究一般の研究トピックとして、注釈と創作との関係についての考察を報告した。その一部は、19世紀アメリカのエマ・ウィラード『アメリカ合衆国史』における本文と脚注の不協和に、史的客観性を掲げる当時の(男性中心の)アカデミズムとより民衆一般の歴史感覚に近い「言い伝え」に史料的価値を見出す女性歴史家ウィラードとの対立を見出す論文として発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画の最初の目標であったアメリカ超絶主義者たちの友情論における個人主義と共感の文化の相互干渉に関する議論については、おおむね予定どおり進め、成果を発表することができた(「共感の倫理--19世紀アメリカのユートピアニズムと権威主義」(第39回日本アメリカ文学会中部支部大会、2023年4月22日)。また、本論をもとに19世紀およびそれ以降のユートピア思想について考察の射程を広げ、本研究計画の最終課題であるナサニエル・ホーソーン論の準備と、さらにその次に続く研究課題の構想まで進めることができた。その意味でも、本年度はおおむね順調に研究課題を進めることができたと考えている。 また、2023年11月25日の中・四国アメリカ学会年次大会における論集『アメリカ研究の現在地--危機と再生』の合評会では、「19世紀アメリカ文学の「つなぐ営為」--ネットワーク、境界線、個人主義」と題して、本研究計画の一端を現代におけるアメリカ文学研究・アメリカ研究の動向と関連づけた。ここでも本研究課題が計画満了したあとの展開について、他の研究領域とのつながりの観点から、さまざまな可能性を検討することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2024年度は本研究課題の最終年度として、これまでの成果をもとに、ナサニエル・ホーソーンの諸作品における共感と個人主義の相互干渉に関する考察を進め、論文として学術誌に発表する。ホーソーン作品の中でも、とりわけ『ブライズデイル・ロマンス』を取り上げる予定である。この論考では、19世紀アメリカの共感の思想やそれに基づく社会改革運動は、それに先立つ18世紀の道徳感情論(デイヴィッド・ヒューム、アダム・スミスなど)の文脈から再考されることになるだろう。 また、2024年度は本研究計画に続く研究課題への展開を構想する年にもなる。これまでの考察から、19世紀アメリカの友情論や共感論は当時のユートピア思想と密接に関わっていることが分かった。現段階では、その関わりにおいて「家族」ないし血のつながりが議論の俎上に上がっていることに着目し、伝統的な家族のあり方とは異なるオルタナティヴな家族観の想像力について、次の研究課題で考察を広げることを検討している。
|
Causes of Carryover |
2023年度は予定していた海外学会への参加が実現せず、その分の旅費が残った。2024年度には海外学会での研究発表を再開させたい。また、20204年度はバイアウト制度を初めて利用する(本報告書を作成時点で実施中)。 また、繰越金は雑誌論文の公開のための費用(英文校閲など)としても使用する。
|
Research Products
(8 results)