2022 Fiscal Year Research-status Report
Development of Caxton's Aesop
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22K00407
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
高木 眞佐子 杏林大学, 外国語学部, 教授 (60348620)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ウィリアム・キャクストン / イソップ物語 / ポッジョ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、複雑な『イソップ物語』の系統の中で、キャクストン版がよりメジャーで再版も重ねたフィリピーラインハルト版ではなく、リヨンのルーセット版を使用している事実が明らかになった。後述する理由から、研究者はポッジョ集についての知見を深めたいと考えているが、この版は現在のところ2冊所在が明らかになっているだけで、どちらも損傷が激しく欠落部分が多く、かつ一般公開もされていない。閲覧はかなり困難だという予測が明らかになった。 キャクストン版は、ロムルス集、Extravagantes集、レキミウス集、アヴィアヌス集、アルフォンス集、ポッジョ集をまとめているが、キャクストンが英語に翻訳する際の底本となったフランス語版イソップはジュリアン・マショーによるラテン語からの翻訳であった。ロッテ・ヘリンガは、キャクストンがこれまで考えられていた1480年以来のフィリピーラインハルト(Nicolaus Philippi and Marcus Reinhart)の版ではなく、リヨンの印刷家Jehan Roussetによる1482年5月10日印行の版から英語に翻訳したことを明らかにし、結果的にキャクストンはポッジョ集の最後に独自の撰集をし、かつオリジナルの話を付け加えていると述べた。キャクストンはこれを1483年に翻訳し1484年3月26日付で印行した。 実はキャクストン版におけるポッジョ集のセレクションが種本から逸脱していることはヘリンガ以前から指摘されていた。しかし、上述の研究から、テクストの終わりにかけてキャクストンによる独自の付け加えが増えていったことが一層鮮明になってきた。 本年度はポッジョ集におけるキャクストンの付け加えの詳細を明らかにする準備段階として、先行研究の整理に重きを置いた。次の段階に進むための困難も同時に把握できたため、現物の閲覧ができない可能性も鑑みて準備を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、キャクストン版『イソップ物語』のテクスト上の諸問題についての先行研究を整理し、ポッジョ集の特殊性を浮き立たせることができた。リヨンのルーセット版がキャクストンが翻訳した種本だと改めて確認できたことは大きな進展である。 また邦文の参考資料もまとまったものが多く、思いのほか日本でのイソップ研究のレベルが高いことを新たに知ることができた。シュタインヘーヴェル版と我が国の『伊曽保物語』を論じるドイツ文学の文献もある。キャクストンの翻訳という立場から更なる貢献がどういう形で可能か模索中であるが、『伊曽保物語』との関連についても、直接はないながらも簡単に補足しておくべきであろうと思わされている。 キャクストン自身も元の版からの逸脱を時折見せているが、今のところ問題にすべきというほどの逸脱ではない。しかし印刷揺籃期にラテン語で成立し、各国語でヨーロッパ中にまたたく間に印刷本として広がったイソップ物語が、ポルトガルを経由して日本に伝わるまでの過程は、大きな変化を伴うものであったから、文化の伝搬というより広い視座からも俯瞰する価値のある動きである。幸い我が国では日本語で研究成果をする研究者からは、学際的な動向を知ることができる。イソップ物語の西洋から日本までの伝搬という大きな流れの中に、キャクストンによる英語翻訳の成立を跡付けることで、イソップ物語の系譜をより確かなものにしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
キャクストン版『イソップ物語』は185点もの木版画を含む点で、キャクストンの他の書物と比べると特異である。しかし先行研究は木版画研究とテクスト研究がそれぞれ独立していることから、キャクストン版『イソップ物語』の全体像を掴みづらい現状も浮かび上がっている。1484年はキャクストンがもっとも多くの書物を印行した時期として知られるが、木版画の入手経路も含め、キャクストンの印刷工程を、引き続き多角的に理解していく必要がある。 本件を遂行するために必要なのが、現地での情報収集である。特に木版画と活字を組み合わせた印刷方法についての知見を深める必要がある。この点については、キャクストンの工房があったロンドンのウェストミンスター大聖堂の一角、そして弟子のド・ウォードが印刷工房を構えたフリート街のセント・ブライズ印刷図書館を訪問し、キャクストンについての考察を新たに深める必要がある。 また、キャクストンとド・ウォードのものも含めた木版画の研究で知られるニューヨーク大学のMartha Driver博士、及び慶應義塾大学名誉教授の高宮利行氏に教えを請い、該当書籍を巡る諸問題について考察することについて、知見を得る予定を立てている。
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Causes of Carryover |
2023年度に海外での情報収集を実行する予定であるため、使用の必要が生じている。特にウィリアム・キャクストンの印刷工房跡(イギリス・ロンドン)で、『イソップ物語』の木版画と活字に関する情報を収集する予定である。
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Research Products
(4 results)