2022 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アメリカにおける権利をめぐる文学的言説の接合の試み
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22K00410
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
伊藤 淑子 大正大学, 文学部, 教授 (50223201)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 女性の権利運動と文学 / 奴隷制廃止運動と文学 / Elizabeth Stoddard / Ellen Craft / Lydia Maria Child / インターセクショナリティ / Margaret Fuller |
Outline of Annual Research Achievements |
文学テクストが性差別と人種差別をどのように物語化したか、物語が相互にどのような言説的影響をもったか、物語をとおして、差別の生まれる構造的状況や感情的作用をどのように可視化したか、その可視化が社会を動かすどのような力になりえたかを考えることを目的として、本研究を開始した。本研究のねらいは、19世紀アメリカにおいて、女性の権利をめぐるフェミニズムと黒人差別廃止の運動や思想が、それぞれのことばにインターテクスチュアルな作用を及ぼしたこと、文学テクストが自由や権利を制限され、搾取を受ける者の声を伝える場となり、現実を映しだすとともに、現実を動かす言説の力を生みだす空間にもなってきたことを示すことである。当時流行していた感傷小説を超える創作を試みたStoddard、白人の外見をもち、黒人と白人の境界をパスしながらヨーロッパに渡り異議申し立てをしたCraft、多様な領域で言説のリーダーとなったChildを軸に、そのほかの関連する作家も考察に含めながら、人種とジェンダーを交差して展開する言論と表象を分析することをねらいとし、研究の一年目には、これまでの研究課題で集めた資料を本研究のために整理することに努めた。また、本研究の枠組みの確立させることに努め、批評理論に関する文献や資料を調査するとともに、それらの理論や視点を用いる文献や論文にもあたった。文学的な言説の形成に同時代の外部的状況が密接に関連していることを確かめ、現代的な批評理論を過去の作家に応用することで、新たな読解の可能性が広がることを論じるための基盤を作ることに努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究期間の延長を行った研究課題を仕上げることに注力したため、本研究の新たな展開にはいたらなかったが、これまでの19世紀女性作家の戦略的言説という視点を継承する取り組みであり、その成果を活かして次年度以降に挽回したい。
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Strategy for Future Research Activity |
一年目に計画していて十分にできなかったのは、奴隷制廃止運動に関わったGrimke姉妹、黒人奴隷から逃亡し活動家になったSojourner Truthなどの文献を読みなおし、研究の基礎固めをするとともに、奴隷制廃止運動にも女性の権利運動にもかかわりながら創作をしたLydia Maria Childの文献全体を分析することである。二年目の計画に合わせて取り組みたい。研究の二年目には、研究計画にそって、StoddardとCraftを軸に19世紀アメリカで人気を博した女性作家の文学テクストを分析し、本研究の具体的な方向性を確立する。アメリカのフェミニズムの原点であるMargaret Fuller、初期の女性参政権運動の推進者であるElizabeth Cady StantonやSusan Anthonyによる一次資料も確認したい。
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Causes of Carryover |
期間延長をした研究課題を完成させることに注力したため、本研究の予算を使い切ることができなかった。新たな資料収集のための経費として、次年度において使用したい。
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