2022 Fiscal Year Research-status Report
ポストモダニズム/アヴァン・ポップの対抗文化への再接続と新たな文化批評の可能性
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22K00413
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
長澤 唯史 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (50228003)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | カウンターカルチャー / ポストモダニズム / アヴァン・ポップ / ポップカルチャー / ロックミュージック |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、本課題の中心となるポストモダニズムとアヴァン・ポップの再検討の作業を進めた。その中でもとくに1960年代から70年代にかけての時代状況の中で、カウンターカルチャーとポストモダニズムの関係性についての見直しを中心として、その関連する分野の資料を収集し分析を行った。 従来のカウンターカルチャー理解においては、その運動を資本主義体制の否定としてとらえるのが一般的であったが、近年の研究では経済格差や貧困の解消という社会的課題の解決に向けた運動であったと理解されるようになってきている。そうした観点からとくにロックをはじめとする60年代のポップカルチャーが資本主義と反体制運動の二項対立を脱構築する志向性を当初から備えていたことを、さまざまな資料を元に検証することができた。 そうした社会内部での改革をめざした運動が、ニューエイジ的な思想と結びつくことで、資本主義や科学文明の否定という従来とは異なる方向に進んだ60年代末に、ニクソン政権誕生に象徴される保守回帰の流れのなかで、一般市民の意識との乖離が始まっていく。その象徴的な出来事が1970年のNYでのヘルメット暴動であった。こうしたカウンターカルチャーの行き詰まりが、70年代後半のポストモダニズムへの発展、展開を用意したのである。 2022年度には、こうした歴史的な視点から、カウンターカルチャーとポストモダニズムの再接続をはかるための論文や論考をいくつかまとめたが、次年度以降はさらにこの点についての調査を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の重要なテーマの一つである「ポストモダニズム/アヴァン・ポップの対抗文化の再接続」については、初年度でかなりの成果を上げることができた。従来のカウンターカルチャー論の問題点についての再検討から、ポストモダニズムとの本質的な相同性、親和性を明確にする道筋はおおよそ立てることができたと考えている。当初の予定通り、2023年度中にはこの点についての研究成果をまとめて発表する見通しも十分についている。もう一つのテーマである「新たな文化批評の可能性」についても、研究ノートとして文学研究と批評の橋渡しとなるであろう今後の方向性について大まかにまとめることができた。 また本課題の研究成果の社会還元についても、いくつかの論考を発表することができ、順調に進んでいる。とくに60年代から70年代のポップカルチャーと社会状況についての研究成果は商業媒体である『レコード・コレクターズ』(ミュージックマガジン社)に複数の論考として掲載でき、学術研究の成果を社会へ発信するという本研究課題の重要な目的を順調に達成できている。 一方で、初年度に予定していたアカデミズム内外との研究会などの開催については、一般向けのシンポジウムを二つ予定していたものの、年度内の実施は一つにとどまり、もう一つは2023年度へとずれ込むこととなった。ただこれも大きな後れとはならず、本課題全体の進捗には大きな影響はないものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の二本の中心的テーマのうち、「ポストモダニズム/アヴァン・ポップの対抗文化への再接続」は先に述べたように、初年度から順調に成果を上げることができていると考える。その上でもう一つのテーマである「新たな文化批評の可能性」についても、すでに各種媒体上での成果公表を含め、具体的な活動のなかで実践的に進めていくめども十分に立てることができた。 2年目以降はまず、本課題の前半部分の総括に向けて、アメリカでの資料調査や関係者への聞き取り調査などを行う予定である。コロナ禍の収束により海外渡航が容易になってきた今、積極的に海外での調査を行いたい。 「新たな文化批評の可能性」についても、2022年度にすでに研究ノートの形で大まかな方向性をまとめてあり、今後はこの議論をより精緻に積み上げていく必要がある。その上で、2024年度以降に著書の執筆も含め、成果の公表を具体的に行うための準備を今から進めていく。
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Causes of Carryover |
2022年度中に実施予定であった研究会(シンポジウム)が、長澤の大学における業務のために年度内に実施することができず、2023年度に繰り越されることとなった。そのため支出予定であった人件費・謝金が執行できず、当初予定との差額が生じることとなった。 なおこのシンポジウムについては2023年4月30日に無事実施することができ、上記の次年度使用額についてはおおむね執行することができた。
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