2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K00415
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
玉井 史絵 同志社大学, グローバル・コミュニケーション学部, 教授 (20329957)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 19世紀イギリス小説 / 共感 / 社会改革 / ディケンズ / ギャスケル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題ではチャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)とジョージ・ギッシング(George Gissing)の作品を中心に共感と社会改革の関連を研究を進めていく計画であるが、令和4年度前半は、ヴィクトリア朝中期の小説における「共感」について幅広く検討するため、ディケンズと同時代の女性作家で、ディケンズと共に売春婦の更生事業にも関わったエリザベス・ギャスケル(Elizabeth Gaskell)の作品を中心に研究に取り組んだ。特に1858年に書かれた短編小説『ラドロー卿の奥様』(My Lady Ldulow)を取り上げ、共感に基づく包摂的社会の構築について考察した。貧しき者、虐げられし者への共感を示すことで社会の分断を克服しようとする試みは、女性作家としての強みを最も発揮できる分野であったが、他者の立場に立ち他者の声を代弁しようとする共感は、自己抑圧や自己滅却の危険性も孕んでいた。この研究では、そのような女性作家特有の共感に基づく社会改革の困難さを明らかにした。その成果は令和5年度に発表予定である。 令和4年度後半はディケンズの中期の小説『二都物語』(A Tale of Two Cities)を中心に、共感と社会改革についての研究を進めた。フランス革命を題材にしたこの小説は、1857年から1858年にかけてインドで起きたイギリス植民地支配に対する抵抗運動、インド大反乱を反映していると言われている。支配者層が民衆に対する共感を欠き、彼らの不満を見抜くことができなかったことが、暴力的反乱を招いたという点で、フランス革命とインド大反乱は似通っている。本研究ではこのような類似に着目し、当時の歴史的コンテクストに作品を位置づけて、共感の役割を考察している。その成果は令和5年度に発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も大学の役職を務め、校務が想定以上に多かったため、計画通りのエフォート率で研究時間を確保できなかったことが主たる要因である。また、当初は主としてディケンズとギッシングに焦点をあてて、共感と社会改革の関連について研究をする予定であったが、共感はジェンダーとも深く関わる概念であることから、女性作家ギャスケルの作品にも関心が移った。それによって、当初の計画していたギッシングの研究に着手することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は当初の計画に戻って、ディケンズとギッシングの比較研究を行いたい。令和5年度は令和4年度後半から取り組んでいる、ディケンズの『二都物語』の研究を完成し発表すると共に、当初の計画から遅れているギッシング研究にも着手する。『暁の労働者』(Workers in the Dawn)や『サーザ』(Thyrza)の再読とともに、関連する研究書を読み、自然主義文学における共感について分析する。
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Causes of Carryover |
令和4年度は学会が校務と重なり出席できなかったり、出席した学会が近距離であったりしたことから、当初の計画通りに旅費を支出することができなかった。また、高額の書籍を購入しなかったため、物品費の支出も当初の計画よりも少なくなった。令和5年度に関しては、旅費や図書の購入によって、予算通りの研究費執行を予定している。
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