2022 Fiscal Year Research-status Report
近代英国演劇作品における科学と文芸の相互作用についての研究
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22K00421
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
境野 直樹 岩手大学, 教育学部, 教授 (90187005)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ルネサンス英国演劇 / 錬金術と近代科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
Christopher Marlowe _Dr. Faustus_(1604, 1616)冒頭、主人公はアリストテレス以降のさまざまなギリシャ・ラテンの著作に言及し、人類の知性の集積を賛美しつつ、同時にその限界に絶望してみせもする。人智の限界の彼方には聖書の存在が、そして罪とその罰としての死についての言及は、かれを「その先の知」へと駆り立てる。そこに待つのは魔術の領域だ。ここに至り、知にたいする「過剰な欲求」は罪として描かれる。果たせるかな、悪魔との契約ののち、フォースタスの好奇心にたいしてメフィストフェレスは一冊の本を与え、問いへの答えが帰された箇所を指し示し続ける。読むこと・知ることはかくして悪魔的実践へ、禁じられた知へと向かうことになる。存在はするけれども読むことが抑制される本、知的好奇心が向かうことを許されない知の領域の設定ーそれらは逆説的に、人間をより強い知的好奇心へと導くことなるだろう。 こうした御しがたい知的好奇心は、やがてその対象を厳格に科学的な言説としてとりまとめて行くプロセスで、かかる禁忌が俗習に、すなわち実態を伴わない迷信に基づくものとして退けることで、狭隘物を取り除き、同時に用語の厳格な統一的定義を導き出すことで、科学的言説としてのアイデンティティを確立して行くことなる。マーロウの戯曲から、悪魔の召喚の呪文が検閲によって削除されたことを想起するならば、近代科学の黎明期・分水嶺の推移を、この時代のいくつかの文芸作品に辿ることが可能であるように思われる。 研究初年度は、こうした問題意識に基づいて、マーロウの作品に言及される古典文献が、当時の英国の知財としてどの程度認知され、共有・言及されていたのかということについて、主としてEEBO(Early English Books Online)上の横断検索を手かがりとして、関連言説の検索と収集・分類を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度に設定した、研究の前提となる作品やキーワードについて、おおむね当初の見込み通りの質的量的なリサーチを行うことができたことから、「おおむね順調」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年度は、初年度に集積した鍵概念を含む一次資料について読み込み、それらの概念が近代科学の言説の前に迷信・俗習としてその信憑性を否定されてゆく様子を、可能な限り一次資料に跡づけるかたちでの研究を進めたいと考えている。 引き続き、EEBOの活用を図るとともに、可能であれば、活字データ以外の図像、立体造形などの一次資料へのアクセスも心みたい。COVID-19の終息状況がこのまま好転するようであれば、英国への渡航による現地調査も検討できればと考えている。
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Causes of Carryover |
当初計画では海外渡航のよるリサーチを計上していたが、COVID-19の状況にかんがみて、リサーチを次年度以降に繰り下げるとともに、オンラインデータベースのアクセス権を購入しての一次資料、ならびに関連する研究資料の検索・収集等に研究内容・方法を切り替えたことによって差額が発生したため。次年度については当初計画にあった海外渡航によるリサーチを計上することで、結果的には当初計画通りの研究経費執行が可能となる見込みである。
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