2022 Fiscal Year Research-status Report
Literary Imagination for Symbiosis in the Anthropocene: Indigenous and Immigrant Culture and Globalization in the Pacific Islands
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22K00427
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小杉 世 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 教授 (40324834)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 太平洋島嶼部 / 人新世 / グローバリゼーション / キリバス共和国クリスマス島 / 太平洋核実験の記憶 / 沖縄 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、海外調査は行わず、今後の研究の基盤となる文献の収集、資料やデータの整理と分析を中心に行った。環太平洋地域における「帝国」の活動とグローバリゼーションの世界システムがもたらす諸問題を分析するにあたり、共著『終わりの風景』の論文において、ボパールを思わせる架空の化学工場事故の後遺症で「人間」でなくなった少年を描くIndra Sinhaの小説Animal’s Peopleが提示する「帝国」のホモ・サケルの表象を、日本の水俣、太平洋核実験場の被ばく者の存在と関連づけ、グローバル企業の軍事産業への関わりや9.11の表象との関わりにおいて検証した。科研初年度はクリスマス島での米国核実験から60年にあたったが、大阪大学会場+Zoomで開催された日本科学者会議第24回総合学術研究集会においては、モンゴルのウラン鉱山開発が遊牧に及ぼす影響を研究する今岡良子氏と分科会「オセアニア海洋文化とモンゴル遊牧文化からSDGsを考える」を構成し、小杉はオープン・レクチャー「太平洋の核軍事化と先住民共同体―キリバス共和国クリスマス島を中心に―」を学生と総合学術研究集会参加者を対象に行った。冷戦期の英米核実験と現在の気候変動の影響を受けるキリバス共和国にとって重要な土地である環礁クリスマス島(Kiritimati)の現在について論じ、マーシャル諸島の詩人キャシー・ジェトニル=キジナーやハワイの先住民活動家ハウナニ=ケイ・トラスクなどの表象文化における環礁=身体のイメージからも人新世の共生の問題を論じた。『平和学事典』の担当項目「植民地主義と文学の想像力」では、坂手洋二の沖縄を舞台とする戯曲『普天間』「海の沸点」「沖縄ミルクプラントの最后」の原発や基地をめぐる言説とマーシャル文学とのつながりを論じ、太平洋・沖縄・ベトナムをつなぐ想像力について考察した。最終校正を終えたが出版は次年度となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、新型コロナがまだ収束しない状況での科研スタートとなることから、今後の研究集会などをハイブリッド環境で行える設備を整え、研究資料とデータ、新たな文学テクストの分析を中心に進めた。関連テーマでの複数の論文執筆や原稿執筆は進んだが、まだ審査中の原稿や出版社への最終版入稿前のものが多く、次年度の成果発表へとつないでいきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
調査地としている太平洋島嶼部の国のなかには、2020年以降、新型コロナよる徹底した渡航規制があった国が多く、医療インフラが脆弱な地域では、解禁後も状況が不安定である。2年目以降、対面での国際学会発表や現地調査も状況をみながら行い、オンラインやハイブリッドでの研究集会の企画も視野に入れて検討する。 環太平洋地域における「帝国」の活動とグローバリゼーションがもたらす諸問題を太平洋島嶼部の(にルーツをもつ)文学と芸術、ライフ・ナラティブなどを対象に、アジア・太平洋の歴史・政治・文化的文脈において考察していく。
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Causes of Carryover |
年度末にわずかな端数の残額が生じたが、合算で使用できるほかの予算の執行がすでに終わっていたため、次年度に繰り越すことにした。
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