2023 Fiscal Year Research-status Report
The Politics of the Body and Affect in Contemporary American Theatre: Kushner, Parks and Joseph
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22K00430
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
外岡 尚美 青山学院大学, 文学部, 教授 (10227605)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 主体 / ネオリベラリズム / 情動 / アメリカ演劇 / スーザン=ロリ・パークス / トニー・クシュナー / ラジヴ・ジョーゼフ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、トニー・クシュナー、スーザン=ロリ・パークス、ラジヴ・ジョーゼフのアメリカ演劇作品を対象に、(1)現代における〈主体〉の不可能性を明らかにするとともに、(2)身体がそれに代わるエージェンシーとしていかに表象の中に立ち現れるか、そして (3)情動はそこでどのように作用するのかを明らかにすることである。 2023年度はパークスとクシュナーを中心に研究を進めた。パークスについては市場原理のなかで主体化される人物が複数の作品で描かれていることを検証し、奴隷制の余波としての人物の商品化という歴史的な視点とネオリベラリズムの体制との関連を検討した(2023年6月黒人研究学会第69回年次大会で発表し、発表に加筆・修正を加えた論文を学会誌『黒人研究』第93号に発表)。またパークスをアフリカ系アメリカ演劇の歴史的系譜に位置付けた(国際演劇協会日本センター発行『国際演劇年鑑2024』に執筆)。クシュナーについてはテクスト分析を進めた結果、2000年以降の作品においては市場原理のなかでの主体構成が精緻に描かれていることが確認された。さらに90年代のクシュナー作品に見られたリベラルな個人主義的主体とは異なる主体を示唆するものとして幻想的・幽霊的身体に着目していたが、情動・身体的レベルで登場人物同士の相互変容を促す関係性に主体変容とエージェンシーの可能性が示唆されていることを「中動態」の議論を参照しつつ検討した(2023年11月に日本アメリカ文学会東京支部例会で発表)。 アメリカ演劇の主要な作品における〈主体〉の不可能性と考えられたエージェンシーの欠如が、市場原理のなかでの主体構成を描くものであることが確認できたとともに、今後の課題として変容の可能性を生み出すテクストレベルでの情動の生成について、より精緻な読みを行う必要が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績は上記の通りである。 2023年度は3月にニューヨーク公共図書館アーカイヴでの資料調査を行うことができた。特にクシュナーについては、研究を進めた結果市場原理と主体の問題が計画当初考えていたよりも重要であることが理解され、3月の調査では関連する作品について初演時の映像資料やクシュナー自身のインタビュー映像資料、紙媒体での資料について集中的な調査を行った。初演時と出版台本の違いも確認できた。市場原理と主体構成の問題については資料をもとにさらにテクストの検討を進める予定である。 また2024年度の研究対象となるラジヴ・ジョーゼフについては、重要な作品の初演映像を確認することができ、情動の生成について考察する際の指針となる舞台での身体性について考える糸口を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、クシュナーについて市場原理と主体の問題に焦点を合わせ、アーカイヴ調査で得られた資料をもとにテクスト(The Intelligent Homosexual’s Guide to Capitalism and Socialism with a Key to the ScripturesおよびHydriotaphia, or The Death of Dr. Browne)の検討を進める。さらにジョーゼフについては管理された主体と管理から逸脱する芸術的創造の対立を主軸に主要なテクストの検討を進める。 ニューヨーク公共図書館アーカイヴにおいて、2023年度において確認できなかったパークス関連の資料を調査する。 研究のまとめにあたって情動の理論について、文学および演劇研究の分野における「感情」「情動」をめぐる研究の系譜を再確認し、テクスト中での情動の生成についての理論の精緻化を行う。
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Causes of Carryover |
2023年度末にニューヨークでの資料調査を予定したが、円安と宿泊費・物価高騰の折、旅費を高く見積もったため、次年度使用額が生じた。2024年度においても当初の研究計画通り、国外で2回目の資料調査を予定しているため、その費用として使用したい。
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Research Products
(4 results)