2022 Fiscal Year Research-status Report
The end of heart - Neuro-images in late-19th-century France
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22K00459
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
熊谷 謙介 神奈川大学, 国際日本学部, 教授 (20583438)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 世紀末 / ポストヒューマン / 精神分析 / 身体 / 動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
フランス19世紀末文学に見られる神経による知覚の表象や、そこから生み出される主体概念について分析を進めた。また文学における動物表象についてとりわけジェンダーの観点から研究を進め、神経文学との結びつきを模索した。 2022年夏にオーストリア・フランスで研究調査を行い、パリでは図書館・書店等で資料読解・収集を進めるとともに、ウィーンでは世紀転換期を中心とした美術作品を調査し、神経表象を考える視点をもたらしたヘルマン・バールと同時代のウィーンの文学・芸術の状況を確認することができた。また、ヘッケルの進化論の特異なイメージ群を収集・調査した。 研究成果としては、①マラルメ研究の第一人者であるベルトラン・マルシャル氏の退職記念論集に、マラルメ作品の家族論的読解を提示し、遺伝などの生物学的モチーフの重要性を示した(Du roman familial a la poesie familiale ; Autour de Don du poeme et du Tombeau d'Anatole, Une transparence du regard adequat, Hermann, 2023.1)、②現代フランスを代表する作家ミシェル・ウエルベックの作品群を、「精神」という既存の主体概念を更新するポストヒューマンの枠組みから考察した(「ネオ・ヒューマンは人間の夢を見るか?;ウエルベックにおける安楽死の誘惑と鎮静の技法」Limitrophe, No.3 (2023.3))、③世紀末作家ジャン・ロランを神経文学という新たな視点から、『フォカス氏』を中心に分析した。本論文は今後、デカダンスや象徴主義、自然主義といった文学思潮を、「神経」を媒介にして総合的に論じるうえで、基盤となる見取り図を提示している(「神経文学論(1)-ジャン・ロラン『フォカス氏』分析」『人文研究』208号(2023.3))。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ状況も改善しつつあるなか、2022年夏には海外調査を行うことができ、また本研究に関連する論文も十分に発表できたように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
19世紀後半における神経科学や進化論を背景とした文明論について調査を進めるうちに、現代においてさかんに論じられる「動物」という主題が前景化してきた。実際、世紀末文学に頻出する神経症的表象において、とりわけ女性の登場人物にはヒステリーだけでなく動物とのアナロジーがしばしば見られることを発見した。2023年3月に「倒錯perversionか侵犯subversionか?-フランス世紀末女性作家ラシルドと動物愛」を研究発表したが、2023年度ではそれを論文とすることで神経文学の一展開を示したい。 また2022年度に論文発表を予定していたユイスマンスの作品分析は、十分に果たすことができなかった。それはユイスマンスをめぐる先行研究の掘り下げが十分でなかったという理由もあるが、「神経症」文学という既存の枠組みを超える観点を獲得できなかったという理由も大きい。動物やジェンダーという新たな視点を導入して、「神経症」を超えた「神経」の文学を検討する意義を示すことで、その実現を目指したい。
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