2022 Fiscal Year Research-status Report
ヘルマン・ブロッホの思考における「絶対者」の意義についての研究
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22K00463
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
桑原 聡 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (10168346)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ヘルマン・ブロッホ / ルートヴィヒ・クラーゲス / 言語哲学 / 言語記号論 / 音素と意味素 / 恣意性 / ナチズム / 絶対性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題「ヘルマン・ブロッホの思考における『絶対者』の意義について」の初年度(令和4年度)は、ブロッホの言語哲学と政治的思考をさらに深く分析することに従事したが、研究を進める内にブロッホの同時代の思想家クラーゲスLudwig Klages(1872-1956)の言語哲学の重要性に注目することとなった。クラーゲスはいわゆるミュンヘン「宇宙論サークル」の中心人物であるが、異端の、反動の思想家として長らく学会・言論界から黙殺されてきた。しかしながらクラーゲスの思想は西欧思想のいわゆる「ロゴス中心主義」を根底から批判し、現代に通用する新しい人間学を樹立する可能性をもつ。言語危機を経て言語記号論が主流となる時代に記号論的言語学を痛烈に批判したクラーゲスの言語論を検討することによってブロッホの言語哲学をより鮮明にすることを目標とした。 言語記号論が言語を差異の体系と考え、音素と意味素の関係が恣意的であるとするのに対し、クラーゲスの主張は音素と意味素の間には自然的結縁性がある、すなわち言語音声が現実の「性情」(Wesen、現実のもつ全体の印象、雰囲気)を表出する力があると考える。クラーゲスは頭韻詩の改革者人Wilhelm Jordan(1819-1904)に依拠し言語の揺籃期には音声と意味の間に密接な関係があったことを例証する。 さらにクラーゲスはそこに「リズムの類似」を聞き取る。昼と夜、睡眠と覚醒、生と死、つまりは宇宙のリズムを音声と意味が極性聯関として模倣する(ミメーシス)と考える。「根源の出来事はこころの出来事によって言語過程に変化して入り込む。」(臼井隆一郎「アウラの言語記号論」1,2を参照) クラーゲスとブロッホは音素と意味素の関係が恣意的ではなく、また言語が言語を越えるものと関係すると考える点において共通する。両者はナチズムの時代に言語の「道具化」を痛烈に批判したのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度はブロッホの言語哲学と政治的思考をさらに深く分析する予定であったが、研究を進める内にブロッホの同時代の思想家クラーゲスL.Klagesの言語哲学の重要性に注目することとなった。研究計画調書ではクラーゲスを視野に入れていなかったが、クラーゲスの言語哲学を考察することによってブロッホのそれの特性をより鮮明にすることができた。このことは最終的には研究成果をより豊かなものにすると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度にはブロッホの政治的思考と彼の言語哲学との関係を解明する。彼の政治的思考についてはおおよそ分析を終えているので、令和5年度には遅れを取り戻すことができると考えている。 その上に当初の予定通りベーメの思想、とりわけ彼の言語論の分析に着手する予定である。クラーゲスの言語哲学を分析できたことによってベーメ、ハーマン、ブロッホの思想の解明に新たな視座を与えてくれる可能性があると予想している。
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Causes of Carryover |
令和4年度は主に書籍購入のために科学研究費補助金を使用したが、147円の残が生じた。令和5年度の書籍購入に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)