2022 Fiscal Year Research-status Report
A study on the acculturation of "Hai literature" and the transformation of life culture in the Spanish-speaking world
Project/Area Number |
22K00475
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
井尻 香代子 京都産業大学, 文化学部, 教授 (70232353)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 俳文の定義・考察 / アルゼンチン・ハイクの精神 / 俳味の概念 / 俳諧の精神・詩学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度はスペインの調査をメール及び郵送で実施した。現地の研究協力者との情報交換により本研究課題と関わりの深い文献資料を多数入手することができた。アルバセテ俳人協会主催の第1回~第3回国際俳文コンクール入賞作品集には日本の俳文についての定義や考察が展開され、実作の普及とともに研究の深まりを確認し、分析を行った。 アルゼンチンでは2000年よりブエノスアイレスの東西財団主催の国際俳句学会が隔年で開催されているが、2020年および2022年には、新型コロナ感染状況を鑑み、オンライン(2022年には一部対面)で大会が開催された。後に公刊された学会紀要には、「スペイン語圏の俳文芸」、「アルゼンチンの風土に根差したハイクの精神」、「俳句翻訳における俳味の概念」等をテーマに取り上げた研究が並び、スペイン語ハイクや俳文芸研究において、俳諧の精神・詩学に関心が寄せられていることが確認できた。また、2022年10月の上記学会では「取合せの歴史とスペイン語圏における受容」に関する研究成果発表を行った。 一方、この10年余りの間に芭蕉、蕪村、鬼貫等、江戸時代までの俳諧作品のみならず、子規、虚子、誓子、秋櫻子などの近代以降の作品の紹介、新興俳句、前衛俳句、自由律俳句、女性俳人の作品を特集したアンソロジー等が次々とスペイン語訳で出版されるようになり、日本の近現代における俳諧の精神や詩学の展開に触れる機会が増加している。 以上の文献資料精査による研究の進展を踏まえ、2023年度にはヨーロッパおよび南米の現地調査(文献収集、研究交流、句会参加)によって、本課題の考察を深める予定である。 また、2023年3月には俳諧の詩学について日本の俳句と海外のハイクの連続性について分析する論文「海外における俳句受容プロセスの深化について(スペイン語圏を中心に)」の第一部「形式・修辞について」を公刊した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画にしたがって、2022年度は欧州対象調査をオンライン及び郵送等で実施し、スペイン語圏の俳文芸(レンガ、ハイク、センリュウ、ハイブン、ハイガ)に関する出版物、記事、学術論文などを収集した。また、現地の研究協力者(文芸誌編集者、ハイク会主宰、ハイガ作家、ハイク研究者)とメール及びオンラインにより情報交換を行った。その結果、上記の「研究実績の概要」に記載したように、1)スペインにおける俳文コンクールの実施状況の確認及び入賞作品集の出版物の入手・分析、2)アルゼンチンの2020年国際俳句学会紀要の入手・分析による俳諧の詩学関連報告の入手・分析及び2022年国際俳句学会オンライン参加、3)日本の近現代俳句作品集のスペイン語訳出版物入手・分析を実施することができた。 さらに、東京出張を行い、国立国会図書館東京本館、国立国会図書館国際子ども図書館、俳句文学館において資料調査を実施し、スペイン中世より伝わる農事・生活暦である『コルドバ歳時記』、20世紀ラテンアメリカにおけるハイクの詩学、ブラジル・ハイカイ、チリ児童文学におけるハイク等に関する文献の複写を入手することができた。現在、分析を通してスペイン語圏の俳文芸理解を多方面から考察中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度には次の研究計画を予定している。1)今年度において郵送やオンラインにより入手した文献、資料、情報の整理および分析を進め、成果を発表 2)スペイン現地調査(マドリード国立図書館における文献・資料収集、アルバセテ俳人協会およびパンプロナ俳人協会における俳文芸に関するインタビューと句会参加)3)アルゼンチン現地調査(アルゼンチン国会図書館における文献・資料収集、ブエノスアイレス大学・東西財団・コルドバ・ハイク・グループにおける俳文芸に関するインタビューと句会参加)4)ペルー現地調査(リマ大学図書館における文献・資料収集、日秘文化会館における俳文芸に関するインタビューと句会参加) 現地調査では研究協力者の協力を得て、聞き取り調査を実施する。現地調査終了後、入手した資料・情報の整理・分析を行う。 2024年度には最初の2年間の調査で収集した資料を整理・分析し、同時並行で現地との情報交換も行いつつ「スペイン語圏の俳文学」の特色を解明する。また,国内学会発表および論文公刊によって研究成果を公表する。これらの分析により,スペイン語圏における「俳諧の精神・詩学」受容の歴史と現状を考察し,「俳文芸」という新しい表現が,20世紀以降の生活文化変容にどう呼応しているのかを明らかにする。
|
Causes of Carryover |
本研究開始時の計画では「欧州対象調査」および「南米対象調査」は遠隔による実施を予定しており、計画にしたがって昨年度はオンライン及び郵送による資料収集を行ってきた。計画策定時には未だ新型コロナ感染症によるイベント開催及び海外渡航規制が厳しく、現地調査に代わる実現可能かつ有効な方法を選んだ結果であった。 しかし、昨年度後半より世界的に文化イベントの再開および入国制限措置緩和が進み、スペインおよびアルゼンチンにおいてインタビューや句会参加などの現地調査が可能な状況となった。こうした状況の変化を受けて新たに研究計画改善を目指し、研究計画の組みなおしを行った。本研究計画では3年目にペルーの現地調査を予定し、南米往復のための旅費を計上していた。そこで、この旅費を2年目に前倒して、スペイン、アルゼンチン、ペルーの現地調査を実施したいと考え、前倒し申請を行った。南米は日本からみてちょうど対蹠地にあたることから、まず欧州(スペイン)に立ち寄り、スペインからアルゼンチン及びペルーに渡航し3カ国で現地調査を行うことが予算及び日程上可能と判断したからである。 以上の理由により、2年目に本来3年目の調査を繰り入れ、ペルー往復の旅程にスペイン及びアルゼンチンの調査を加えることとした。3年目は旅費を減額した予算で「資料分析」および研究成果の発表を集中して行う。
|
Research Products
(2 results)