2022 Fiscal Year Research-status Report
"global realisms"の観点からみた文学理論の誕生と顔の表象
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22K00482
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
番場 俊 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (90303099)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | global realisms / 顔 / 文学理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、リアリズムのグローバルな伝統を、ネーションと歴史を超えた(trans-)現象として捉え、平板化されたリアリズム概念と東西二元論の堅固な枠組みから文学理論を解放しようする試みにおいて近年提起された"global realisms"という概念を導きに、日本とヨーロッパにおける文学理論の誕生と小説の実践を、とりわけ「顔」(キャラクター)の評価/造形という問題に注目しながら、トランスナショナルな同時代的現象として検討しようとするものである。具体的には、(1)坪内逍遙(『小説神髄』1885-86年、『当世書生気質』1885-86年)から漱石(『草枕』1906年)にいたる小説の理論と実践の展開を、西洋における小説論の流れや日本における観相学的・骨相学的言説の輸入との関係に留意しながら明らかにすること、(2)漱石『文学論』(1907年)とロシア・フォルマリズムの同時代性を検討すること、(3)エイゼンシュテイン(「思いがけぬ接触」1928年、「クロースアップの歴史」1940-1948年)、ヴィゴツキー(『芸術心理学』1925年)、バフチン(「美的活動における作者と主人公」1920年代前半)といったロシアの理論家たちの仕事における顔/キャラクター論に注目しながら、20世紀前半における芸術理論のトランスナショナルな展開を明らかにすることを目指している。 令和4年度はこのうち研究課題(1)を中心にすすめ、逍遙から漱石にいたる小説ジャンルと顔の表象の変化について検討した。研究課題(2)(3)に関しては、基礎的な文献の収集など、準備的な作業をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題(1)において、"global realisms"をテーマとしてOxford University Pressから刊行される予定の論文集の一章を執筆した(仮題"Realist Physiognomies and the Japanese Modernist Novel")。亀井秀雄は『身体・この不思議なるものの文学』(れんが書房新社、1984年)を「明治以前の小説では、登場人物の顔が描かれることはほとんどなかった」という一文ではじめているが、近代以前の文学における顔に関する関心の希薄さは、ドストエフスキーをはじめとする「新しい作家たち」において「われわれははじめて人間の声を聞き、人間の顔にあらわれた怒りや喜びを眼にするのだ」というロシアの批評家ローザノフの言葉(『ドストエフスキーの大審問官伝説』1891年)からもうかがえるように、西欧やロシアにも共通している。小説的ディスクールにおけるゴーゴリ後の断絶は、ロシア・フォルマリストのエイヘンバウムや、エイヘンバウムへの批判を含むバフチンの小説論によって強調されてきたが、本章では、逍遙におけるためらいがちな試みにはじまり、二葉亭四迷『浮雲』(1887-89年)をへて、漱石『草枕』において一つのピークに達する「顔」への関心の増大と、それを可能にした小説言語構造の変革について、ロシアにおける変化を参照しながら検討した。 研究課題(2)(3)においては基礎的な資料の収集と検討をおこなったが、研究成果をまとめる段階には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題(1)においては、Oxford University Pressから刊行予定の英語論文集のために前年度に執筆し、提出した1章の仕上げが最初の課題となる。さらには、漱石が『草枕』で主人公の画工に仮託しながらおこなった小説批判が、ほぼ同時期に刊行準備をすすめていた『文学論』や、「文芸の哲学的基礎」といった理論的著作とどのような関係にあるのかについて検討する。 研究課題(2)においては、漱石『文学論』を、ロシア・フォルマリストたちの著作と比較検討するための準備作業をおこなう。漱石の『文学論』は、従来いわれてきたほど前後に隔絶した試みものではなく、当時流行の「進化論の枠組みと、意識の心理学とヒュー・ブレア以降の修辞学の方法」が不安定に結びついたシステムであったとされるが(富山太佳夫「漱石の読まなかった本」、『ポパイの影に』みすず書房、1996年)、「漢学に所謂文学と英語に所謂文学」の両義性のただなかで文学研究の可能性を見きわめようとした漱石の探究は、「文学素材に固有の特性を基礎にして自立的な文学研究を作りだす」(エイヘンバウム「「形式的方法」の理論」1926年)ことをめざしたフォルマリストたちの探究と同時代的な出来事であり、かつ、今日の文学研究・文学研究の実践においてもアクチュアルな問いでありつづけている。 研究課題(3)においては、ヴィゴツキーが『芸術心理学』においておこなった「主人公」概念の批判を、同時代のトゥイニャーノフによる同様の批判や、バフチンによる独特の主人公/キャラクター論と比較する作業をおこなう。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染状況と航空運賃の高騰をふまえ、次年度の海外出張の可能性を考慮して支出を抑制した。資料収集のための旅費や必要な書籍の購入費として使用する予定である。
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