2022 Fiscal Year Research-status Report
A unified understanding of syntax and the lexicon in language evolution
Project/Area Number |
22K00552
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤田 耕司 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (00173427)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 言語進化 / 運動制御起源仮説 / 統語と語彙の平行進化 / 反語彙主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
人間言語の起源・進化の問題を考究する進化言語学において,本研究はこれまで等閑視されてきた感のある語彙進化の問題を統語の進化と平行的に捉え,両者を統一的に理解・説明することを目指すものである.理論基盤となる最新生成文法(ミニマリスト・プログラム)では,人間言語の特質である階層文法のルーツを最も単純化された回帰的組み合わせ操作「併合 Merge」に求めながらも,これまでその起源・進化については積極的な考察を怠ってきた.これに対し本研究者が提案した「運動制御起源仮説」は,この併合は道具作製などに見られる階層的物体組み合わせ操作にあるとし,漸進的でより進化的妥当性の高い理論を展開してきた.そこで重視されるのは,結果的に人間言語専用とされる併合も,その進化においてはそうではなく,他種のもつ諸能力との連続性を維持するものであるという点であった.本研究は語彙進化についてもこの同じ進化的連続性が成立すると仮定し,他種に見られる語彙「的」機能と人間の語彙との種間比較を行い,その差を埋めることで語彙の自然な進化シナリオを提案する.特に,本研究者が既に提案した語彙の形成にも併合が関わるとする「統語・語彙平行進化」の仮説や他種では渾然一体となっている語彙範疇と機能範疇が分離したことが語彙進化の重要な側面であるとする「分離仮説」を発展させるものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では特に,(A) 人間言語の語彙と他種の語彙「的」信号との相違,(B) 語彙の原子単位とされる素性 (feature) の進化的ルーツ,(C) その素性の結合に始まる言語併合と結果として生じる領域固有性,の3点に取り組むこととしているが,これまで(A)に関し,従来は人間にしかないとされた概念が他種にも存在していること,人間との違いはその概念自体を信号化して外在化することが他種ではないという点にあることを,さまざまな動物研究の報告に基づいて結論づけた.また一部には概念自体の外在化も存在するという観察もあり,これ自体も人間固有ではないという可能性についても検討した.この方向が正しければ,人間と他種の違いは,質というより量的な問題ということになり,進化的連続性がさらに裏付けられるであろう.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は上記(B)および(C)のテーマに着手し,語彙進化の包括的なシナリオの構築に着手する.このうち(B)については,素性の中には性・数・人称など他種においても認識され得る情報を担うものがあり,また他種もmental time travelを行うことから時制素性の萌芽もすでにあると考えることができる.しかしこれだれではまだ人間言語の素性に至るわけではなく,さらに何が必要かという観点から考察を進める.他種の素性的認知がさらに分化すると純粋な素性になるとの見通しを立ててこの問題に取り組むが,これは基本的に語彙範疇と機能範疇の成立に関する「分離仮説」を拡張するものである.また(C)については,「運動制御起源仮説」が唱える領域一般的な「汎用併合」が言語内において統語部門に限らず音韻・形態・概念など様々なドメインで作用することが,語彙を構成する素性に対しても働き(素性併合),それが語彙の形成を可能にするという観点から研究を進める.
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Causes of Carryover |
予定していた旅費・人件費等は,繰越が生じていた他の科研費でまかなえたため,本経費に未使用額が生じた.また次年度以降の学外研究スペースを借り上げるため,その賃料を次年度用に残しておく必要があった.この賃料を差し引くと次年度直接経費は計約90万円となり,当初配分額より約20万円マイナスとなる計算だが,人件費を削減することで問題なく研究を実施できる.
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