2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K00565
|
Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
大西 博子 近畿大学, 経済学部, 教授 (60351574)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 呉語 / 入声調 / 舒声化 / 四甲 / 南通 |
Outline of Annual Research Achievements |
呉語の声調は、単独(単音節)で読まれるか、単語(複音節)で読まれるか、音節構造の違いによって異なる実現形態を取る。複音節語の非末位に位置する入声は、舒声化が進行した地点であれ、短時の調値に交替する。つまり、連読変調の入声には、早期の姿が実現される。 このことから、舒声化傾向が著しく観察される南通市海門区四甲鎮の方言を対象に、その地域に住む生え抜きの方言話者(老年層と青年層からそれぞれ2名)から採取した録音データをもとに、2音節構造の第一音節部分(前字)と第二音節部分(後字)それぞれのピッチ(音高)と持続時間(音長)を計測し、二つの入声調(陰入と陽入)の連読変調システム(tone sandhi)を分析した。 その結果、陰入と陽入のそれぞれの入声は、2音節語において異なる動きをしていることが明らかになった。陰入は基本的には変調しないが、音長変化が激しく、前字の持続時間平均値は後字の約半分である。陽入は組み合わさる声調の高さによって、自らのピッチも変わることから、音高変化が激しいといえる。それにより、陽入と陰入が同じピッチで現れたり、陽入が陰入よりも高いピッチで現れるパターンも観察される。つまり入声同士が同化する中和(neutralization)現象が、前字の位置でも後字の位置でも観察される。 以上の結果から、入声舒声化は、声調システムが一定の区別を維持するために引き起こした音高調節に由来するのではないかという仮説を立てるに至った。陽入のピッチ変化により入声同士の中和が生じ、四甲方言では合流という動きには向かわずに、互いの音高対立をより際立たせる方向に転じ、陰入は長音化、陽入はピッチの上昇化が推進した。陰入は長音化が推進されたことで、舒声調により接近し、舒声化も推進されたと推測した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度における計画では、入声舒声化の分布地点における連読変調システムを解明し、入声の進化過程の論証(長音化に始まり調値の接近により舒声化が推進される)の補強を目指すことを掲げた。今年度は四甲方言だけの観察に終わったが、連読変調システムにおける入声の動き(声調変化)を詳細に分析することができ、入声舒声化の発生原理の解明に一歩前進することができたと感じられるから。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度における計画では、入声舒声化の分布地点における非声調特性の解明を目指すことを掲げたが、今後の研究の推進方策として、まずは先行研究で得られた推論(入声同士の同化現象(中和化)が入声舒声化を引き起こす一因となった)を検証することから始めたい。 具体的には、四甲鎮以外の地域で入声舒声化傾向が顕著に観察できる方言を対象に、2音節変調における入声の動きを観察し、四甲方言と同様の現象が分布しているかどうかを調査する。その後、呉語における入声の連読変調システムの類型化を行い、俯瞰的な視点から入声の進化過程(声調変化)を分析し、先行研究で得られた結果の普遍性を確認することを目指す。以上の研究成果は、10月開催予定の国際学会において発表する予定。
|
Causes of Carryover |
理由:①旅費の未執行によるため。新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、海外渡航に制限がかかり、中国が主催する国際学会はオンライン開催となり、当初予定していた旅費が全く使えなかったから。②移籍に伴う物品購入を自粛したから。7月に他大学への移籍が内定したことにより、移管すべき物品の購入を見送ったから。 使用計画:次年度使用額は、昨年度に見送った海外での学会発表の旅費に充て、当該年度分は、当初の予定通り、方言調査にかかる渡航費や人件費及び方言調査に携帯する機材の購入費などに充てる。
|