2022 Fiscal Year Research-status Report
共生社会実現のためのオンラインによる異文化シミュレーションの教育的効果の研究
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22K00674
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
鈴木 有香 桜美林大学, リベラルアーツ学群, 助教 (10910664)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保田 真弓 関西大学, 総合情報学部, 教授 (20268329)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | オンライン異文化シミュレーション / 海外赴任予定者 / 異文化感受性発達モデル / 振り返り活動 / プロセスマップ / 対話 / 意識変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の第一目的はオンラインによる異文化シミュレーションの効果を量的・質的に把握したうえで、国内の社会人を対象とした異文化コミュニケーション教育に寄与することである。 2022年度は、2021年5月から12月の海外赴任事前研修参加者143名から得られた研修の事前事後の2回の質問紙調査を実施し、そのデータから参加者のデモグラフィー、レディネスを統計的に調査した。また、簡易版異文化感受性診断テストを作成し、事前事後の質問紙調査で比較したところ、143名中102名が自文化中心的段階にあったが、オンライン研修後、138名中108名が文化相対主義段階に有意に上昇したこと確認された。この上昇は、属性、レディネス、満足度に関係なく、万遍なく上昇しており、幅広い層に対し一定の学習効果があると言える。 異文化感受性が自文化中心主義段階から文化相対主義段階の移行を可能にした活動として、シミュレーションの中で異文化接触直後に行われる振り返りの対話の中で作成される「プロセスマップ」の記述を内容分析し、振り返り時に何が生じていたかを考察した。振り返りの活動では、否定感情を共有し、相互の文化を理解し、異文化での会議への対策を講じる対話が自発的に行われていた。この対話のプロセスの中から、山本(2023)が提唱する「未発の異」を見える化し、参加者の知覚変容を促進する「異対面」の場として機能しており、意識変容に寄与していることが判明した。オンラインによるシミュレーションであっても、学習目標に合わせた教育的デザインによって、意識変容が可能であると言える。 これらの調査について学会発表を2回行い、2つの調査をまとめた研究ノートを学会誌に投稿し、修正を条件に採択された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は2つの調査を行なった。
1つは2021年に企業の海外赴任者を対象に実施した計8回のオンライン版エコトノスの参加者計143名のデモグラフィーを明らかにした。参加者は全て男性(20代~60代)で所属部門は、製造、生産管理が62.3%であり、その他には経理・管理部門・役員、デザイン・開発などが含まれる。現職位は主任・組長が35.7%、一般20.3%、部長・役員17.5%、課長・工長16.1%、その他10.5%である。海外赴任経験なしが82.5%、現地語が話せない人が62.2%を占める。オンライン研修で使用するZoom操作に不慣れな人がほとんどだった。年齢、職務内容、赴任経験、レディネスなどに関わらず、オンライン研修後、138名中108名が異文化感受性発達モデルにおける自文化中心主義段階から文化相対主義段階に有意に上昇したこと確認された。唯一、有意な相関があったものは現職位であった。現職位の高い人は元から異文化感受性レベルが高いため、変化なしかあるいは下降傾向があり、それ以外の職位の人は上昇傾向があった。また、自由記述からは文化差が自分の思っている以上に個人の感情や行動に影響を与えることに対する気づきが書き込まれており、シミュレーションの学習目的は達成していると言える。
2つ目の調査はシミュレーションの中で異文化接触直後に行われる振り返り活動の中で作成されるプロセスマップに記述を内容分析したところ、否定感情の共有し、相手の文化を理解し、異文化状況における会議への対策が自発的に記述されていた。これはある種の自発的対話であり、参加者自身が対話を通じてこれまで気がつかなかった差異に気づき、知覚の変容を促進し、結果的に意識の変容に寄与していることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は異文化感受性診断テストを簡略版ではなく、日本人用に開発された診断テストで実施し効果の測定をする。参加者に結果を通知し、フィードバックするための個々人へのフィードバックシートの作成、診断結果を解説する動画を作成し、研修後のフォローアップ体制を構築するようなカリキュラムの変更を加える。 また、研究協力をしてくださっている企業の許可がでれば、対面での異文化シミュレーションを実施し、オンラインでの測定結果との比較を行いたい。ただし、これは企業側の決断によるので、10月、11月頃にできるかが、まだ未定の状況である。状況によっては2024年に入ってから行うことになるかもしれない。 しかしながら、状況的に無理であれば、オンラインでの異文化シミュレーションに参加し、海外赴任をして3か月程度たっている人たちにフォローアップインタビューを行い、質的に参加者にとっての教育効果について調査をしようと考えている。これも現在、担当企業側との承諾を得て、個々人への依頼をしている段階である。 2024年度は過去2年の調査の結果を総合的に分析したい。対面での異文化シミュレーションの実施ができれば、オンライン研修の効果と比較し検討していきたい。そして、異文化シミュレーションのトレーニングがより汎用化するように、オンラインでの異文化シミュレーションについての、デザイン、実施、効果について、より一般的な人が利用できるような手引書のようなものを作成したい。
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Causes of Carryover |
文字起こし用のためのアプリの購入を考えていたが、文字起こし担当者にとって使いやすいものがみつからないため、アプリを購入していないため。適切なものが見つかり次第、2023年度予算で購入したいと考えている。
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Research Products
(2 results)