2022 Fiscal Year Research-status Report
英語会話における発話の共同構築現象の研究と英語教育への応用
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22K00752
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
山崎 のぞみ 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (40368270)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 話し言葉文法 / 発話の共同構築 / 共同発話 / 非標準用法 / 統語融合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は第一に、会話における共同発話現象を含む「話し言葉文法」の記述という研究基盤の構築に取り組んだ。話し言葉と書き言葉との関係や文法観、言語に関する社会的認識の変化など話し言葉文法の解明にかかわる諸問題を総合的に考察し、話し言葉の文法的特性の定義をいかに定義し記述すべきかという問題を扱った。 話し言葉研究では、話し言葉のみに見られる、あるいは話し言葉により高い頻度で生じる形式・構造を頻度面と分布面から調査し、生起環境や機能のパターンを分析する。その結果、書き言葉では非標準的とされる形式でも、話し言葉での使用に一般性・規則性が見られる場合、話し言葉では「標準的」であると言える。本研究では、非標準形式だが話し言葉では普通に使われるThere’s+複数名詞、二重否定、統語融合、冗長形を考察し、話し言葉で容認される程度には違いがあり、同じ事項でも変則性や容認可能性の認識は一律ではないことを示した。 さらに、英語教師向けリフレッシャー講座にて担当した講義「発話の共同構築現象の研究を活かしたインタラクション指導」によって、発話の共同構築現象を英語教育に活かす方策を探った。一般的な教科書のやりとり活動例は、返答の内容や構造を想定しない一問一答形式か、内容や形式の縛りが全くない自由会話のどちらかになりやすいことを指摘した。そして、口語英語コーパスを用いて、相手の発話(の一部)を繰り返したり言い換えたりする語句の反復・言い換えや、相手の発話に付け加える拡張の実態を観察した。自然なインタラクションを目指した指導のためには、相手の言葉を繰り返したり言い換えたりするだけでも立派な返答になり、そのためには聞く力や、言い換えのための語彙力を養う必要があることを提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
会話の共同構築現象研究を英語教育に活かす方策を探る本研究は、言語研究と教育方法研究の両方にまたがっており、両者を並行的・一体的に進める必要がある。本年度は、両方の側面から研究を行うことができた。言語研究では、会話の共同構築現象記述の基盤となる「話し言葉文法」に関わる諸問題を整理した。「文法」の概念は、文法性、容認可能性、標準、規範、変則性など様々な要素が複雑に絡み合っており、話し言葉文法の記述には、話し言葉に特徴的な言語現象をどのように特定するかという問題をはらむ。本研究では、「話し言葉文法」の射程を概略的に整理した後、「スタイル(フォーマリテイ)」「多重文法」「標準・非標準」という3つの観点から話し言葉文法の記述方法や対象について考察を行った。 また教育方法研究では、英語教師向け講座にて会話の共同構築現象を教育に活かす方法を探った。会話者は、相互に影響を及ぼし合いながら共同で会話を構築しているが、学習者は、文法的に完結した独立文の産出に注意が向きやすく、相手の発話を踏まえた発話をすることがなかなかできないという盲点がある。特に「語句の反復・言い換え」「相手の発話への付け加え」「相手の発話を受けたthat’s what ...」を取り上げて、コーパスの実例を観察しながら、どのように相手の発話を受けて自らの発話を構築しているか、分析を行った。これらの言語現象・言語形式は共同構築現象の一部ではあるが、会話でのやりとりという新たな側面から語彙や文法を捉え直す機会を提供し、自然なやりとり能力育成に活かす方法をいくつか提供することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究も、本年度同様、発話の共同構築現象というテーマを軸として、言語研究と教育方法研究の両面から研究を進めていく予定である。言語研究面では、話し言葉に見られる逸脱的構文(非標準形式)をいくつか取り上げて、会話での使用実態を調査する。例えば、that’s what you need is satisfaction.のような統語融合は、発話途中で構造が乱れた運用上のエラーと見ることもできるが、[that’s what ... is]というフレーズの頻度や安定性の高さから、「話し言葉文法」の一部として定着していると言える。このような周辺的構文が話し言葉で創発して慣習化・固定化される背景には、談話調整や会話運営といった双方向的な話し言葉に特有の要因があると考えられる。今後の研究では、このような構文を談話や相互行為のレベルで捉えることで、基となる中核的構文とは異なる独自の談話機能を担っていることを明らかにしたい。 英語教育面では、発話の共同構築という観点を英語教育に導入する意義を改めて整理し、効果的な言語活動やタスクの考案に結び付けたいと考えている。第一に、学習英文法の成り立ちや特質について考察する。伝統的な学習英文法は、会話のやりとりや相互行為といった共同構築に関わる観点が欠けていると思われる。学習英文法に話し言葉の相互行為的視点を取り入れることで、それまでに習得した語彙や文法を、会話でのやりとりという新たな側面から捉え直すことができる。また、会話で自然な共同発話を行う方略を身に付けるためには、「話す」ことの中には「聞く」ことも組み込まれているという認識が重要である。相手の言葉を再利用するだけでも十分なやりとりになり得ることに気づかせて、英語での会話参加者として自信を持たせられるような言語活動や教材の考案を進める。
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Causes of Carryover |
本年度は研究環境の整備・資料収集のために、主にパソコン等の機器類や電子辞書、書籍に使用を費やした。コロナ禍の影響で、学会・研究会の開催方法が未だオンラインによるところが多く、対面開催に出向いた機会が少なかった。そのため、旅費の使用が少なくなり、次年度使用額がわずかに生じた。次年度は対面開催の学会・研究会が増えると見られるので、学会・研究会参加費用や旅費に使用するつもりである。また昨今の物価高で、特に東京でのホテル料金が高騰しているようなので、その費用にも利用したい。 また、発話の共同構築現象というテーマは学際的である。近年、話し言葉の用法を包含した文法理論がコーパス英語研究、認知言語学、語用論、会話分析、談話分析、相互行為言語学、社会言語学、方言・変種研究などの分野で展開されている。話し言葉を基盤とした文法研究は、直観や内省による文法記述から切り離された言語現象を対象とし、言語を使用環境や話者同士の関係性、社会と関連づけて考える。そのため、発話共同構築の解明に寄与するような最新の研究成果を入手するために最新の書籍・学術誌を購入し、幅広い分野の知見の収集に努めたい。
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Research Products
(4 results)