2023 Fiscal Year Research-status Report
A study of the Chinese village community in the revival of rain making ritual
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22K00909
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石井 弓 東北大学, 東北アジア研究センター, 准教授 (50466819)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | オーラルヒストリー / 中国村落コミュニティ / 東西交流史 / 中国近現代史 / 集合的記憶 / 口頭伝承 / 雨乞い / 趙氏孤児 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は論文「中国農村のコスモロジーから地域を捉える」『歴史学研究』2023年12月号を執筆した。日本では日中戦争期に満鉄調査部によって広範な中国農村調査が行われ、伝統的組織である「社」や「会」の「共同体」としての性格をが議論されてきた。その後冷戦体制による実地調査の空白期間(1950~70年代)があり、その間の社会主義による農業集団化の政策を経てもなお「社」や「会」が存続していることが確認されると、そのレジリエンスを担保する要因を「中国農村のコスモロジー」から考察する必要性が指摘された(斯波義信、1979)。こうした背景から、本研究では、雨乞い復活の現象のなかに、農村の世界観(コスモロジー)とコミュニティの関係を捉える試みを行った。 夏季にはオックスフォード大学を訪問し、雨乞いの起源神話である「趙氏孤児」のヨーロッパ伝播を理解するため、18世紀以降の「趙氏孤児」のヨーロッパでの上演に関する英語資料および英語圏の研究論文を収集した。 3月にはコロナの流行や政治情勢により数年間中断していた中国山西省での調査を再開し、6村でのフィールドワーク、9名へのインタビューを行った。この調査によって中国農村の変化と現状を確認し、村人たちの協力体制と、調査地域の安全を再確認することができた。インタビューでは、これまで蔵山を中心に形成されてきたと考えていた大王信仰(雨乞い)のコミュニティが、実は後に「構築」されたものであり、南社村が古くからの信仰の中心であった可能性が聞き取られた。南社を中心とする周囲の50村あまりと陽曲県の宴村では、趙氏孤児(趙武)が屠岸賈から逃げる際の伝説が伝えられており、各村の語りをつなげると一定の逃走経路が浮かび上がる。2000年前の歴史に関する伝承のなかに、趙武の逃走によって地形的に往来が困難な地域の村々が結び付き、今日のコミュニティを形成していることが見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初困難であると見られた中国での調査に成功し、これまで収集した資料とあわせ一定の成果を確保できているため。本研究は、中国農村における神話や伝承を聞き取り、2000年以上の歴史とその地域の人々の認識や記憶の関連を見出そうとするものである。今年度の調査では、中国農村の「社」組織と物語の関連から、その手掛かりを見出すことができた。また、論文執筆を通して、中国農村の既存の研究を概観し、その流れの中で本研究の意義を再確認し、今後の研究の発展を見通すことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の聞き取りにより、盂県の南社村とその「神親」(神の親戚)関係にある陽曲県の宴村が、歴史的にどのような繋がりを持ってきたかが明らかになった。今後は、同様に神親の関係にある盂県の上卜頭村と陽曲県の義井村についても調査を行い、二つの似通った雨乞いのコミュニティの比較によって大王信仰の歴史とコミュニティの成り立の考察を進める。また、南社周辺の村々で広く調査を行い、口頭伝承、石碑、廟の実態から、南社を中心としたコミュニティのつながりについて考察する。更に、蔵山の伝承及び盂県全体のネットワークは以上の二つの中心地(南社、上卜頭)とどのような関係や階層にあったのか、再度調査し明らかにする。
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