2023 Fiscal Year Research-status Report
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22K00913
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
土口 史記 岡山大学, 社会文化科学学域, 准教授 (70636787)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 郡 / 郡県制 / 里耶秦簡 / 岳麓秦簡 / 秦律令 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず秦漢の「郡」による行政監督についての研究を進めた。これに関する重要史料が、里耶秦簡(湖南省の秦代県城遺跡から発見された簡牘文書)と岳麓秦簡(湖南大学が入手した、秦代の律令を多く含む簡牘群)である。まず里耶秦簡については郡と県との関係についての史料を収集・解読した。これにより郡級官府における行政の遅滞、郡級官府から下級官府への属官の派遣、郡と郡との平行的な連携などに関する情報を得た。また岳麓秦簡については、「秦律令」に見える官「執法」の存在が本研究においては重要となる。執法府は県を監督する郡級の官府だが、それに対して中国でいくつかの新知見が発表されたため、筆者もまた過去の認識を更新すべくこれに関する史料を収集し、論文執筆を進めている。 岳麓秦簡「秦律令」を解読する過程で、「郡」研究の応用として史料論に関する成果を発表することができた。岳麓秦簡は出土地不明の「非発掘簡」であるため、元来の所有者の身分・職掌などを把握するには「秦律令」の史料論的分析が必要となる。その一環として「郡」を冠する律令について論じ、その成果を土口史記(劉聡訳)「秦令文本修訂考:以岳麓秦簡《尉郡卒令》為例」(『法律史訳評』11輯)として公表した。本稿は「秦律令」中に同一の「令」の異本が複数存在することに注目し、そこに行政文書が法令へと変化する過程が見られること、一方で修訂の不備も存在し、これが個人所有の律令という事情を反映している可能性があること等を指摘した。 また、渡辺信一郎著『中国古代国家論』の書評を公表した(『文明動態学』vol.3)。本書には、秦漢時代における帝国の領域構造に関する知見も豊富に含まれ、それらは「郡」制の理解と密接に関係する。これに対する本格的な批評を行えたことは、本研究により大局的な視点を導入するうえで有意義であったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年に岳麓秦簡の最終冊『嶽麓書院蔵秦簡(七)』が出版されたことで、そこに含まれる「秦律令」の全貌が明らかになった。そこで本年度は岳麓秦簡「秦律令」および行政の実態を示す里耶秦簡を中心に、郡・県の関係および郡・執法の関係についての史料の抽出をほぼ完了した。ただし史料間の矛盾や、断片どうしをいかに整合的に解釈するかといった問題がなお残っている。 また「研究実績の概要」で述べたように、本年度は岳麓秦簡の史料論に関する成果を公表することができた。この研究の過程で、岳麓秦簡「秦律令」の対象範囲が郡吏や県吏などに限定・特定できるわけではなく、そのため当該簡牘の所有者(律令の参照者)の身分範囲もまたより広く想定すべきではないかという初歩的認識を得た。これを起点として、当時の地方官吏が律令をどのように所有し、どのように読んだのかという史料論的研究を一層進めることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは岳麓秦簡・里耶秦簡の分析を継続し、郡・県関係および執法府に関する断片的な史料の整合的解釈を目標に研究を進める。 次に注目すべきは、2023年に部分的ながらも「走馬楼前漢簡」の内容が新規公開されたことである。本簡牘には前漢武帝期の郡級官府の司法権に関わる史料が豊富に含まれており、秦から漢にかけての郡制の展開を考えるうえでこれは極めて重要である。加えて、胡家草場漢簡や張家山336号墓出土簡のような前漢文帝時期までの法制史料も増加しつつある。そこで次年度以降はこれらの簡牘史料の解読・分析をも進め、里耶秦簡・岳麓秦簡その他の史料との比較検討を行うことで、秦から前漢半ばまでにおける「郡」制の歴史的展開を考察したい。
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Research Products
(3 results)