2022 Fiscal Year Research-status Report
明清交替期における辺境統治の様態ー皇帝側近官僚の辺鎮派遣をめぐる中央と地方ー
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22K00924
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
荷見 守義 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (00333708)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 17世紀の危機 / 災傷 / 賑恤 / 呉三桂 / 档案 / 制勅房 / 勅稿底簿 / 勅書 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国元朝から明朝にかけての生態環境と災害状況については、カナダのブリティッシュコロンビア大学のティモシー・ブルック教授による研究が先行研究として存在している。従って、その論の当否を判断するところから作業を始めた。まだ、その全容を検証するところまで作業は進んでいないが、明代において六波あるとされている災害が酷かった時期について、寒冷化を引き起こすとされる太陽の黒点運動の時期と必ずしも一致していないことは確認した。このことをどのように解釈すべきかに向けて、検証作業を精緻化しなければならないと考えている。ところで、ティモシーの解釈によれば、元代から明代にかけては生態環境が厳しい時期であり、災害も起こりやすいと考えることができる。この点も従来の明代史研究では意識されてこなかったことであるが、特に環境の厳しかった明初に王朝を建国した朱元璋は災害に対してどのような対処をしようとしていたかを、現存する法令から検証した。その結果、朱元璋は被災者に対する救済措置に熱心に取り組んでいる姿を浮き彫りにすることができた。朱元璋の国家運営の基礎は農業の復興にあったため、農民の救済にも熱心であったのであろうと推測している。 明末期は17世紀の危機にかかる時期であり、この時期の政策展開と災害の関連は主要テーマである。この時期の文書である档案を解析するための基礎作業として、官僚を新たに任命するための辞令である勅書について、档案として残存する勅書の分析作業を始めた。特にこの時期、辺境にあって国境防衛に活躍した呉三桂の総兵官任命の過程を档案ベースで詳細に追及したことを始めとして、辞令としての勅書に初めて着手し、その一端を論文として公刊することができた。官僚として誰を任命するか、中央官庁のどこの部署がその人事に関与するかは、従来、追及されていないが、政策の実態を観察する上で意味を持つ作業であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
中国元朝から明朝にかけての生態環境と災害状況については、カナダのブリティッシュコロンビア大学のティモシー・ブルック教授による先行研究があるが、これについてはかなり大雑把なところがあるので、本研究はその検証作業から入っている。まだ、その全容を検証し終えていないが、先行研究と太陽黒点活動とのずれがあることは分かってきており、それをどのように解釈して新たな研究に繋げられるかが目下の課題である。 なお、中国において2022年初めに刊行が予定されていた、明代の気象・災害に関するデータ集の刊行が大幅に遅れ、2022年度末になってやっと納品されたという事情によって、気象・災害に関するデータ整理の作業が遅滞しているため、そこからの史料探索の作業に遅れが生じている。本データ集はかなりのボリュームがあるため、消化するまでに一定の時間を要するが、今後、大きな成果を上げるための最も重要な基礎となってくれるだろうと期待しているところである。 また、研究計画はコロナ禍を前提として立案したものの、文書館に赴いての文献調査が着手できないでおり、この4月末からやっと着手するところである。 このように、気象・災害に関するデータ整理の作業と文書館における文献調査は遅れているが、档案に関わる整理研究と執筆に関わる作業は順調に進んでおり、従来、取り上げることのなかった辞令としての勅書の解析に初めて取り組み、その成果の一部を公刊し始められたことは大きな成果であった。遅れている作業のペースを上げつつ、学会発表、成果刊行に繋げていくことを目指しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、明代に関わる档案史料の解析から、17世紀の危機とそれへの明朝の政策対応を検証するところにある。現在は档案の解析は辞令である勅書という史料について、明朝末期を中心に解析し、執筆・公刊する作業を続けており、年度中に1編の論文を公刊し、もう1編の論文を投稿しているところである。档案解析については、今後、スピードアップして作業を進めていく予定でいる。 なお、遅れの生じている明代の気象・災害についてのデータ集は、つい先日、入手したところであるので、約1年遅れではあるが、データ解析の作業を集中して行い、遅れを挽回する計画でいる。 文書館における史料調査については、コロナ禍が次第に落ち着いていくことを祈りつつ、これまでの遅れを次年度で取り返せるよう、集中して行っていきたいと考えている。以上がこれまでの課題と今後の推進方策である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の中で慎重な行動を求められる中、感染による本務校における各種公務への影響を考慮せざるを得ず、また、文書館の中には利用に一定の制限を設けているところがあり、このため、文献資料調査が滞ったことが理由であったが、本年度は新型コロナウイルスの5類移行で文献資料調査の遅れを取り戻せる見込みである。従って、本来、2022年度に計画していた東京での文献資料調査を2023年度に上乗せして、文献資料調査の遅れを取り戻す計画でいる。
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