2023 Fiscal Year Research-status Report
In what sense was the Russian Empire an autocratic state?
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22K00959
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
吉田 浩 岡山大学, 社会文化科学学域, 准教授 (70250397)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 農奴解放 / ゼムストヴォ / 司法改革 / 帝政ロシア |
Outline of Annual Research Achievements |
ロシア帝国がどのような意味で専制国家であったかにつき、本年度はアレクサンドル2世による「大改革」の主要な内容について、意思決定がどのようにおこなわれたかについて分析をおこなった。農奴解放においては皇帝が演説で示唆した内容をうけて内務官僚が実務的資料を揃え、内務大臣が皇帝に提出したところ、皇帝はその実施の可否を含めて専門委員会にまかせた。農奴解放実施の具体的方法については、質的に重要な問題(全ロシアでの実施の可否や農民への土地分与の有無など)については皇帝が決定した。専門委員会や国家評議会は少数意見と多数意見の両方を皇帝に示し、農奴解放について皇帝はしばしば少数意見を採用した。 地方自治体改革や司法改革についても、改革の具体的内容はともかく、方法について農奴解放と基本的に同じ方法がとられた。地方自治改革については、農奴解放により従来領主が担っていた農民行政が国家の問題となり、地方制度の改編につながったため、はじめ農民問題総委員会で審議された。その後、内務省に設置された県郡制度再編委員会の担当となり、全身分的要素と地域における貴族の活躍という二つの要素が折衷されゼムストヴォ(地方自治体)の設置という形で実現した。 司法改革については、ニコライ1世の時代から訴訟遅延が問題になっていたが改革は進まず、アレクサンドル2世治世になってから国家評議会で具体的審議がはじまった。そこで司法に関する様々な問題が明るみに出、皇帝が裁判組織そのものの改革を命じるに至った。法案の作成作業は皇帝官房第二部、国家評議会事務局、起草委員会などが担当し、国家評議会法律部・民生部の合同部会および総会の審議を経て皇帝の裁可を仰いだ。 以上のように改革は専門委員会に任せつつ、多数意見、少数意見を提出させ、そのどちらを選ぶこともできたという意味でロシア帝国は実質的な専制国家であったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では、モスクワおよびサンクトペテルブルクの文書館にある内務省、司法省、国家評議会などの一次史料を分析することにより帝政ロシアが実質的な専制国家であったか否かについて明らかにする予定であった。しかしコロナやウクライナ戦争によりロシアへの渡航が困難となり、現在のところ文書館での資料収集をおこなえておらず、主に公刊資料をもとに研究を続けざるをえなかったため研究がやや遅れることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
ウクライナ戦争はまだ継続しているが、ロシアへの渡航は全く不可能というわけでもないことが明らかとなりつつあるため、本年度はぎりぎりまで渡航の可能性をさぐり、遅れている資料収集を実現したい。それができない場合には、研究計画に記した次善の方法をとり、アメリカの文書館にあるロシア関係資料を収集することで補う予定である。その場合には国家評議会の資料収集が困難となる一方で、ニコライ・ミリューティン資料の利用が可能となり、彼が責任者として携わった農奴解放や地方自治の例を深く検討することにより課題の実現を果たしたい。
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Causes of Carryover |
本研究遂行のためにロシアへの渡航が必要であり、その経費を多く見積もっているが、ウクライナ戦争のため渡航が実現できていない。しかしロシアへの渡航が全く不可能ではないことが明らかになりつつあるので、本年度は可能であれば複数回渡航して研究計画にある資料収集を果たしたい。もし不可能となった場合には、研究計画に示した次善の策であるアメリカの文書館が保管しているロシア関係資料を収集し、本研究課題を遂行する計画である。
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Research Products
(2 results)