2022 Fiscal Year Research-status Report
在外ロシア世界が見たソ連政治体制:道標転換派によるソ連認識の史的研究
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22K00962
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
中嶋 毅 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (70241495)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 在外ロシア / ロシア革命 / 道標転換派 / ウストリャーロフ / 一国社会主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1917年の十月革命に反対して亡命したロシア人が形成した「在外ロシア」がソヴィエト・ロシアに対して示した政治的態度の転換過程をあとづけ、彼らによるソ連政治体制認識とソ連における一国社会主義体制の形成過程との相互関係とその歴史的意義を、同時代史料に基づいて実証的に明らかにすることを課題とした。本年度は、1920年にハルビンに亡命し、ロシア愛国主義の視点からソヴィエト政権を承認しこれに協力したN. V. ウストリャーロフの対日観と日本とのかかわりを解明することを主要な課題とした。 この課題の遂行を通じて、以下のような諸点を明らかにすることができた。(1)反ボリシェビキ政権のイデオローグであったウストリャーロフにとっては、ヨーロッパにおけるロシアの地位の回復が何よりも重要であった。日本のシベリア出兵時にかかわりを持った日本軍当局者との私的な関係においては「親日的」な気分を抱くようになったウストリャーロフだったが、政論家としてまた公人としての彼の国際情勢分析のなかで、日本は副次的な位置づけにあった。(2)コルチャーク敗北後にハルビンに亡命したウストリャーロフは、亡命地でロシアと日本との密接な関係を意識するようになった。そして東北アジアにおけるロシアの国家利益擁護という視点から、日露協調の重要性を新たに認識するに至った。(3)しかし1931年の「満洲事変」以降、日本が中国東北への進出を本格化して同地域のソ連の国家利益を脅かすようになると、ウストリャーロフは次第に日本の行動に対する懸念を強めていった。彼にとって日ソ関係の悪化は、中国東北におけるソ連利害の侵害だけでなく、ソ連側の視点に立った自身の主張を展開できる空間への制約の拡大を意味した。1934年に入ると彼の言論活動に対する圧力が一段と高まりを見せるようになり、最終的に35年3月の中東鉄道売却後に彼はソ連に帰国した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
革命後にハルビンに亡命したロシア知識人が形成した「道標転換派」グループの中心人物であるニコライ・ウストリャーロフの日本観を一定程度明らかにし、論文として発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果をふまえて、ハルビンに亡命したウストリャーロフの周辺に集った亡命知識人集団が展開した具体的活動について、ウストリャーロフが主に従事した教育活動・評論活動を中心に、同時代刊行物を用いて実証的に分析する。この作業とあわせて、ハルビンにソ連勢力が進出して在外ロシア世界が変容する時期の歴史的展開にかかわる同時代史料を分析する作業を継続する。
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Causes of Carryover |
在外ロシア関係資料収集のためロシア連邦国立文書館への出張を計画したが、ウクライナ戦争勃発にともなう政情不安のため出張を断念し、次年度使用額が生じることとなった。当該費用は、マイクロフィルム資料分析のためのデータ化費用に充当する計画である。
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