2022 Fiscal Year Research-status Report
Constructing a High-precision Bronze Age Chronology of the Balkan Peninsula
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22K00979
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Research Institution | Ancient Orient Museum |
Principal Investigator |
千本 真生 (財)古代オリエント博物館, 研究部, 研究員 (10772105)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 考古学 / ブルガリア / 青銅器時代 / 編年 / 土器 / 放射性炭素年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、バルカン半島南東部に位置するブルガリアで収集した資料を用いて、高精度の青銅器時代編年を構築し、その地域編年を東地中海域からヨーロッパ内陸部にかけての広域編年のなかに位置付けることを通じて、前3千年紀から前2千年紀にかけて西アジアとヨーロッパをつなぐ交易網が形成されていった過程とその実態を解明することを目的としている。 研究計画の一年目は、予定を変更して1)青銅器時代資料の調査、2)前期・後期青銅器時代遺跡資料の年代測定を行った。 まず、青銅器時代資料の調査に関しては、前期青銅器時代のテル型集落デャドヴォ遺跡の東斜面から検出された青銅器時代層の土器と土製品の型式学的特徴を検討した。その結果、中期青銅器時代に類例をもつ資料を見つけることができた。このことによって、これまでデャドヴォ遺跡は前期青銅器時代集落とみなされてきたが、中期青銅器時代に位置づけられる可能性のある資料について新しい所見が得られることになった。 上トラキア平野南東部に位置するオルロヴォ・ベレネ遺跡で、青銅器時代の遺構から出土した土器を調査した。その結果、当該遺跡の土器は前期・中期青銅器時代の両時期に認められる型式学的特徴を備えていること、土器の特徴と放射性炭素年代(2200ー2000BC)が整合的であることが明らかになった。 ブルガリア人研究者の協力により、テル型集落のソコル・ヒミトリヤタ遺跡と、平地型集落のベロコピトヴォ遺跡、イリンデン・クリスラ遺跡から出土した計8点の動植物資料の提供を受け、放射性炭素年代を測定した。その結果、ソコル・ヒミトリヤタ遺跡の年代は前期青銅器時代第1段階の最初期に、ベロコピトヴォ遺跡とイリンデン・クリスラ遺跡の年代は後期青銅器時代の前半と後半にそれぞれ相当し、各年代は土器から導かれる相対編年と概ね一致していることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画の一年目には、ブルガリア国立考古学研究所のV.ペトロヴァ博士を調査隊長として、同国南部の上トラキア平野に位置するアセノヴェツ遺跡で後期青銅器時代集落址の発掘調査を実施する予定であった。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、いくつかの要因が重なって、昨年度に申請していた遺跡発掘調査の許可がおりなかった。発掘調査を行う代わりに、ペトロヴァ博士と遺跡を訪れ、現地で調査計画について打ち合わせを行い、次年度の調査に向けた準備を進めた。 テル型集落のデャドヴォ遺跡に関しては、前期青銅器時代層の年代測定と並行して、各建築層の住居址から出土した土器を対象に型式学的分析を進めた。本年度は住居址の出土資料に、出土地点と建築層の明らかな資料を加えて分析を行うためのデータを収集することができた。 上トラキア平野南東部に位置するオルロヴォ・ベレネ遺跡の土器資料を直に観察する機会を得た。本遺跡の資料は、放射性炭素年代によって前2200-2000年のあいだに収まることが明らかになっているが、この年代値を示す遺跡資料は上トラキア平野ではまだほとんど知られていない。観察の結果、青銅器時代の前期から中期への漸進的な移行を示す型式学的な特徴を示していること、北ギリシアに位置する前期青銅器時代遺跡とのあいだで類例を有することがわかった。 近年発掘調査された青銅器時代の遺跡から動植物資料を収集し、順調に放射性炭素年代のデータを蓄積することができている。今回はブルガリア北部を含め、あらたに8点の資料の年代データを入手した。 アセノヴェツ遺跡の発掘調査を行うことはできなかったものの、青銅器時代の土器を中心とした相対編年と放射性炭素年代のデータを着実に蓄積することができたことから、やや遅れているという評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
アセノヴェツ遺跡の発掘調査申請が採択された場合、筆者は本研究計画二年目の秋季にアセノヴェツ遺跡の発掘調査に従事する。アセノヴェツ遺跡では、出土した土器資料と年代測定用資料を収集する。土器については秋季と春季の二度にわたって型式学的な特徴を調査し、記録する。年代測定用資料は日本に郵送したあとに、国内の機関にて年代測定を行う。両者の結果を統合して、ブルガリア地域内での編年的な位置付けを検討する。 調査計画二年目においてもアセノヴェツ遺跡で発掘調査を実施することができなかった場合は、ブルガリア人研究者の協力を得て、おもに中期・後期青銅器時代遺跡を対象に資料を収集し、放射性炭素年代を測定する。また、オルロヴォ・ベレネ遺跡をはじめとする土器の型式学的データを継続して収集する。さらに、西アジアからエーゲ海域にかけての青銅器時代編年研究の現状を把握するために文献調査も進め、計画一年目に集めた年代学的データをブルガリア青銅器時代編年と西アジアおよびエーゲ海域の編年網のなかに位置づけることを試みる。さらに、筆者が所属している古代オリエント博物館が所蔵しているシリア北西部の前期・中期青銅器時代資料を調査し、西アジアからヨーロッパ南東部にかけて分布する資料について調べる。
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Causes of Carryover |
ブルガリアで計画していたアセノヴェツ遺跡の発掘調査を実施することができず、本年度に人件費・謝金および分析委託費として予算を使用することができなかったため、次年度使用額が生じた。 2023年度にブルガリア南部に位置するアセノヴェツ遺跡で発掘調査を行うことになれば、次年度使用額を調査に必要な人件費や分析委託費として利用する。アセノヴェツ遺跡で調査を行うことができない場合は、収集した資料のデータ整理のために必要な人件費や収集した資料の分析委託費として利用する。
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Research Products
(2 results)