2022 Fiscal Year Research-status Report
ライフヒストリーとソーシャルネットワークからみる日本人高齢者の引退移動
Project/Area Number |
22K01050
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
丹羽 孝仁 帝京大学, 経済学部, 准教授 (10736268)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 引退移動 / 人口移動 / 高齢者 / ライフヒストリー / 社会ネットワーク分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,日本人高齢者の引退移動に関わる人間関係を,社会ネットワーク分析の枠組みを用いて明らかにすることを目的としている。特に,国内移動と国際移動,短期的滞在と長期的滞在のそれぞれの特徴を明らかにする。 2022年度は,全体的な分析枠組みに用いているライフヒストリーと社会ネットワーク分析に関わる広範なレビュー調査を実施した。社会ネットワーク分析に用いるための,人間関係(交友関係)に関するデータ収集方法を整理した。検討を進め,調査票に反映させる予定である。 さらに,日本国内における移動に関して,統計データの分析を進めた。2022年度中に,2020年国勢調査の移動に関する種々のデータが利用できるようになり,年齢および個人属性による引退移動の特性を第一に明らかにしようと分析している段階である。なお,高齢者の移動のすべてがライフスタイル移動に該当するわけではないため,世帯の統計データとの組み合わせや他の資料の活用などを検討し,移動の背景にも迫りたい。 また,2022年度に現地調査を実施できていないが,タイで予定している現地調査の準備を進めた。タイのチェンマイには日本人高齢者が多く滞在しており,調査協力者にWeb上でコンタクトをとった。新型コロナウイルス感染症が,現地の日本人社会にどのような影響を与えているのか概況を把握することを目的とした。2022年度の段階では,長期的滞在の日本人高齢者に従前からの変化がみられないものの,短期的滞在の人たちがまだ回復していない状況が明らかとなった。これを受けて,2022年度ではなく,2023年度中の現地調査の準備を始めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度に,現地調査を実施できていないため,調査計画そのものはやや遅れ気味にあると考えられる。日本人高齢者の人口移動に関して,国内移動と国際移動の双方で,長期的滞在よりも短期的滞在の移動は2022年度においても新型コロナウイルス感染症の影響がみられた。研究計画では現地調査時に短期的滞在者と長期的滞在者の有効回答数が同数になるように,被調査者の選定をする予定である。このことから現地調査の実施タイミングを見計らっている状況である。 一方で,分析枠組みに関する文献レビューおよび日本国内における日本人高齢者の人口移動に関する統計資料の分析を先行して進めることができた。人口移動研究において社会ネットワークに関する議論は,移民ネットワークやトランスナショナリズムの枠組みで豊富な議論がある一方で,この定量的な分析は端緒についたばかりである。また,トランスナショナルな移動だけでなくトランスローカルな移動に注目する研究視座は,国内移動と国際移動の双方を捉える上で重要な概念になると目される。 以上の進捗状況から,全体として順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度までにライフヒストリーや社会ネットワーク分析など,分析枠組みに関するレビュー調査を実施したが,2023年度以降,ライフスタイル移民に関するレビュー調査も必要とする。その際,高齢者のヨーロッパ域内の移動やヨーロッパからタイへの移動に関するレビューだけでなく,ほかの地域間のライフスタイル移動を把握する必要がある。 日本国内の移動については2023年度以降に集中して調査する計画である。この点は当初の計画から変更しているが,日本における新型コロナウイルス感染症対策の基準が緩和されることを受けて,調査を実施したいと考えているためである。国内の高齢者の移動に関してコロナ禍の影響が徐々に弱まっていくと目される。 また,タイのチェンマイにおける日本人高齢者が有する社会ネットワークに関しては,2023年度に調査を実施する。かれらの滞在期間や年齢などの日本人高齢者の属性と現地日本人社会およびホスト社会との社会ネットワークの強さの関連性を分析する予定である。この成果について学会で報告を行い,その後論文を執筆する。 タイ以外に調査を予定している東南アジア諸国について,2023年度中に本調査前のプレ調査を実施し,現地日本人社会の全体像を把握する。その上で2024年度以降にフィリピンやカンボジアでの調査を実施する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額の発生要因は,現地調査のタイミングを当初計画よりも後ろにずらしているためである。新型コロナウイルス感染症は,2022年度の段階でも,国内移動と国際移動の双方で,短期的滞在者の動きに影響を及ぼしていると考えられる。そのため,日本国内における対策の基準が大きく変わる2023年度以降に現地調査のタイミングを変更した。2023年度は当初の研究計画通りの現地調査を予定しているため,2022年度に発生した次年度使用額は解消していく見込みである。
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