2023 Fiscal Year Research-status Report
地中海イスラーム世界の自然観の再検討:トルコ遊牧民の人間-動物関係を中心に
Project/Area Number |
22K01074
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
田村 うらら 金沢大学, 地域創造学系, 准教授 (10580350)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 遊牧民 / ユルック / 脱・人間中心主義 / 人間-動物関係 / イスラーム / 自然観 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「脱・人間中心主義」の視点から、広義のユルック(トルコ遊牧民)を主たる対象として人間-動物関係を詳らかにし、さらに現代トルコ社会を事例に、地中海・イスラーム世界における硬直した自然観を捉え直すことを目的とする。定住/移牧/遊動のユルック(トルコ遊牧民)を自認する人々を中心的な対象とし、彼らの人間-自然関係を人類学的に観察・分析することを通して、イスラーム世界におけるマルチスピーシーズ民族誌との接続可能性を探ることを目指すものである。 2年目となる2023年度は、9月にトルコ共和国において12日間のフィールド調査を実施した。主としてウスパルタ、コンヤ、アンタルヤ、カラマン各県境付近の山岳地帯一帯において、多数の遊牧民村落、夏営テントをレンタカーで回り、彼らの生活実態を調査するものであった。主に、それぞれの世帯に地図を広げながら遊動(移牧)経路を聞き取り、その変化、滞在村落との関係、場所による生活状況の変異、政府による生活支援プロジェクトの恩恵、若年世代のユルックの生活課題等について、サルケチリ氏族数世帯に聞き取り・観察を実施した。そこから、移動生活を断念するユルックが数十年の間に激減したことや、スマートフォンの普及、政府の時折の生活支援等により、かなり生活実態が変化し、利便性が向上していることが確認された。その一方で、若年世代の都市生活への憧れの強さから後継者不足が恒常的な問題となっている実態も明らかになった。また、いくつかの動物-人間関係に関わる興味深い民俗知識・伝承・慣習等も収集することができた。 2月にも渡航し、半月程度、冬営地での生活実態について調査を実施する予定であったが、本務校重要任務のために大幅に短縮して帰国せざるを得ず、本科研用務としては、若干のラクダ相撲関連の聞き取りと遊牧民博物館訪問に留まり、期待したほどの成果は得られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の前半期には、夏と春の長期学期休業中にはトルコ共和国におけるフィールドワークを実施することが必須であるが、当該年度はそれが十分に叶わなかったためである。2月に半月程度、冬営地での生活実態について調査を実施する予定であったが、本務校重要任務のために大幅に短縮して帰国せざるを得ず、期待したほどの成果は得られなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
海外現地調査を基盤とする研究課題においては、他業務の合間を縫っていかにまとまった調査期間を確保できるかが、とりわけ肝要である。また、季節的な移動を伴う調査対象であり、書く季節に生活環境が異なるため、毎年同じ月だけに調査が可能という状況では、観察事項に偏りが生じてしまう。 来年度ないし再来年度には、サバティカル制度やバイアウト制度等を積極的に活用するなどの工夫をして、調査時間を確保し、十分なデータ収集ができるよう努めたい。 また、本研究課題期間後半にさしかかるので、データと分析枠組みの精査を進め、学会発表や論文執筆に繋げてゆく予定である。
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Causes of Carryover |
パンデミックによる渡航制限に伴う前年度からの繰越額が50万円超あったことに加え、春季の調査渡航を大学業務のため大幅に短縮せざるを得なかったため。 繰り越しの上、翌年度の調査旅費や学会旅費等に使用予定である。
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