2022 Fiscal Year Research-status Report
現代アメリカ行政国家の動揺と「保守」の憲法観――大統領の人事権を手がかりに
Project/Area Number |
22K01107
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
会澤 恒 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (70322782)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 大統領の人事権 / ニューディール型行政国家 / 独立行政機関 / 保守政治 / 単一執行権理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ合衆国の大統領が連邦行政機関の官職について持つ人事権に関する近時の判例動向を手がかりとして、「保守」的な憲法観が現代型行政国家に対してもたらす動揺を検証し、その要因と影響とを分析するものである。 本年度は、着想の契機となった合衆国最高裁の判例法を内在的に把握する作業に従事した。その一環として特許審判を違憲とした判決を検討する評釈を公表した。この事件で争われたスキームでは、商務長官限りによって任命された特許審判官が行政部門としての終局的決定を行っており、この決定に大統領が直接に任命する主要官僚は異議を差し挟むことができなかった。法定意見が、このようなスキームは大統領を起点とする行政部門の「命令の連鎖」を破壊して違憲だとする一方で、個々の事案処理に対する上官の指揮・監督は必須ではないとの反対意見も提出されている。すなわち、行政のアカウンタビリティとは何を意味するのか、人事において適切な人物を選任することに留まるのか、個々の事案処理についても究極的に大統領が責任を負うことがポイントなのか、という位相差を析出できた。近時の最高裁が大統領の人事権について有する関心が、法執行権能を大統領に一元的に把握させようとの保守派の理論である強い単一執行権論とも通底することを確認した。 また、ニューディール型行政国家体制は、行政部門による裁決手続とそれに対する司法審査を、訴訟における上訴手続と同様の連続的なものとして把握していた。これに対し、近時の最高裁判例においては、裁決手続を執行部門内部で終結すべきものとして位置付け、これに対する司法審査との間でラインを引いている、という特徴も見出された。これはニューディール体制の相対化であるが、形式の確保に留まっていて決定の実質に大きな差異はないとも見受けられ、この形式への関心が那辺に由来するのか、というさらなる問いが析出された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の作業として予定していた、大統領の人事権に関する合衆国最高裁の判例法の検討作業が進展し、具体的な判例評釈――関連する背景事情などについても論じた結果、浩瀚なものとなった――として公刊した。その作業を通じて、保守派の理論である強い単一執行権論が影響力を強めていること、だが保守派の法律家の間にも位相の差が見受けられること、ニューディール体制の相対化が見受けられるが、形式の確保に関心が偏っており実質面への関心が弱いこと、といった諸点を析出した。こうした諸点のもたらす要因が那辺にあるのか、という次の検討課題へのステップを確保することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度は当初予定していた研究計画を着実に遂行できており、次の検討課題である「保守」の憲法理論の内在的分析と政治史への定位という作業に着実に取り組んでいく。
|
Causes of Carryover |
物品費のうち、書籍の購入を計画していたものについては、本年度の主たる作業が判例法の分析であったため、これまでの研究を通じて入手していた文献およびインターネット上で無償公開されている文献を利用することで作業を進めることができた。次年度は、これまでの研究から守備範囲を広げ、政治思想的課題および行政学的視野からの分析に着手することとなるため、新たな文献の入手が必要となり、そのために予算を使用する予定である。 また、パーソナルコンピュータを購入する予定があったが、2023年4月に新モデルが発売されると見込まれたことから、購入を延期した。発売次第、購入予定である。 旅費に関連して、参加を予定していた学会および研究会の一部について、対面とオンラインでの両様の開催可能性を留保して計画されていたところ、結局オンラインでの開催のみとなったことから、旅費の支払いが発生しなかった。また、対面で実施された研究会については、別の研究費により支弁したことから、本研究からの出捐が発生しなかった。パンデミック下でオンラインの利便性も認められたが、やはり限界もあり、本年度は対面でのヒアリング・意見交換の機会を増やす予定である。
|
Research Products
(2 results)