2022 Fiscal Year Research-status Report
Conditions of the possibility to create a basis for contemporary deontology
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22K01109
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
樺島 博志 東北大学, 法学研究科, 教授 (00329905)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 法哲学 / アーレント / ヤスパース / 正義論 / 義務論 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画1年目である令和4年度の研究遂行計画にしたがい,2022年7月3日から7月8日にブカレストにて開催された第30回IVR国際会議「正義・コミュニティ・自由」に参加し,そこでまず,特別分科会SW34「正義と存在(Justice and Being)」を主催した。この特別分科会は,樺島を含む4名の共同主催者が,7月7日から8日にかけて計8時間30分にわたり開催し,正義と人間存在をめぐる法・社会哲学の根本問題について,12件の研究報告をもとに活発な議論を展開した。このうち,研究代表者・樺島は,司会進行のほか,7月8日16時30-17:00に,Kabashima: Einsamkeit, Vergebung, Kommunikation - Suche nach Grundlage einer normativen Theorie anhand von H. Arendts The Life of the Mind というドイツ語による研究報告行った。 さらに,このブカレストにおける共同研究の具体的成果として,主催者の一人であるブレア教授との共著としてGerson Brea, Hiroshi Kabashima: Existencia em crise: as situacoes - limite em Karl Jaspers (Existence in crisis: limit situations in Karl Jaspers), ARGUMENTOS - Revista de Filosofia/UFC. Fortaleza, ano 15, no 29 - jan.-jun. 2023, pp. 143-153 (e-ISSN: 1984-4255)をポルトガル語にて公表した(註:ポルトガル語の文字表記が不正確です)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,21世紀の精神史的状況において,究極的には,義務論の成立可能性の条件の探求を目指しながら,具体的には,ギリシア以来の古典哲学の伝統に立脚しつつ,ドイツ観念論と実存論を踏襲したH.アーレントの哲学的企図を手がかりとして,人間存在の規範的理念を提示することを目標とする。本年度の研究成果は,研究計画に記載の通り,第30回IVR国際会議にて,特別分科会を主催し,研究報告を行ったことを中心とする。 この研究成果の意義は,まず,ブラジリア大学G.ブレア教授,ミュンヘン工科大学Ch.リュトゥゲ教授,マドリッド・ファン・カルロス大学デ・プラダ教授とともに,英語・ドイツ語・スペイン語・ポルトガル語を用いた国際的な共同研究プロジェクトとして発足できた点に存する。今後も,この4名を中心として相互交流を発展させることで合意し,次のステップとして,2024年に韓国ソウルにて開催されるIVR国際学術会議にて,法と社会をめぐる哲学的研究の共同研究プロジェクトを継続する予定としている。研究代表者・樺島は,プロジェクトの発足メンバーの一人として,引き続き研究活動において重要な役割を担う予定である。 この国際共同研究プロジェクトの重要性は,研究計画に記載した通り,今日の法哲学の議論状況が,分析哲学に端を発する応用倫理学や規範論理学へと傾斜してゆくなかで,ギリシア以来の伝統的な哲学のスタイルに立脚し,さらには哲学と神学を架橋する超越論・形而上学へと視野を広げる点にこそ認められる。この哲学的企図は,グローバル化の進展する21世紀の精神史的状況に適切に対応したものであると評価しうるであろう。研究代表者・樺島が,哲学の根本問題をめぐる国際的な議論,とりわけ,普遍的な人間存在の理念と正義観念を探究するプロジェクトにおいて,中心的な役割を担うことは,一つの重要な研究成果として位置づけることができると思う
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画2年目の2023年は,研究計画においては,台湾・高雄大学で開催予定の東アジア法哲学シンポジウムに参加し,英語での研究成果発表を行う予定としていたが,今般の台湾海峡をめぐる北京政府と台北政府間の地政学的変化を受けて,おそらくは,東アジア法哲学シンポジウムの枠組みを維持することが困難となったものと思われる。したがって,当初予定を変更し,まず,ドイツ語にて,ミュンヘン工科大学の共同研究者らとの研究会を通じて研究交流を行い,そのうえで,"Gesetz des Universums"という研究論文を発表する予定である。さらに,研究計画全体を俯瞰する成果として,日本語にて,「現代義務論の超越論的基礎」という論文を発表することを予定している。いずれも,2023年度内の出版公表は間に合わないかもしれないが,論文提出は行う予定である。 研究計画の最終年度である2024年は,2023年度に提出した論文が公表されることと合わせて,本年度の研究成果で触れた通り,ソウルで開催される予定の第31回IVR国際会議において,特別分科会を主催し,国際共同研究プロジェクトを発展させる予定としている。当初の予定では,成果発表の言語は英語としていたものの,国際共同研究者の使用言語と合わせて,英語,ドイツ語,ポルトガル語,スペイン語,日本語を用いて,適切かつ有意義な形で国際的な研究成果の交流討論ができるような形で,研究を遂行する予定である。
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Causes of Carryover |
国際学会への参加費については,コロナ疫病による海外渡航規制のために航空運賃が通常より低額となった。物品費について,外国書籍の入手について,インターネットからのPDFファイルのダウンロードを積極的に活用した結果,研究遂行に必要な文献の入手が安価で可能となった。また消耗品についても保守的に購入した。外国語のネイティブ・チェックについて,英語による発表媒体に代えて,ブラジル・ポルトガル語の学術誌を発表媒体とし,その際に国際共同研究者が自らネイティブ・チェックを行ってくれたおかげで,経費の執行が不要となった。
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