2022 Fiscal Year Research-status Report
旧東ドイツ法における法的紛争解決の法史学的分析と評価
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22K01110
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 洋一 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 名誉教授 (00114596)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ドイツ民主共和国 / 民事訴訟法 / 紛争解決 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は3年計画の初年であるとともに、Covid-19のために延長をしていた前研究計画のための海外調査をせざるを得なかったので、本研究計画については主に文献調査を行なった。しかし以前の研究計画遂行中に収集した文書史料のなかに今回のテーマに関係する史料も存在するので、これらについても検討を加えた。 具体的な作業としては、(1)まず、一般的な文献にもとづき、ドイツ民主共和国(以下、DDR)の法学における紛争とその解決についての基本的な見方を整理し、その歴史的展開と変化をもたらした外的要因を具体的に明らかにするための文献を渉猟した。それぞれの時点で政治的に重視されていたイシュー(例えば農業集団化、経済計画策定、スターリン批判など)との対応関係が明確に現れた。 (2) ヨーロッパ社会における紛争解決の主要な制度的手段としての民事訴訟を対象として、DDRが当初自由主義的なドイツ民事訴訟法典(ZPO 1879年)を維持しつつ、個別的な立法によってその妥当範囲、内容を改変していった過程の分析。上記(1)と同様に、その時期ごとに重視されていた政治的問題との関係が明らかになったが、同時に早くから裁判という形式的な紛争解決メカニズムの相対化を目指していたことが明らかになった。(3) DDRにおける紛争解決過程の特徴を際立たせるためのアプローチとなる研究戦術上有効な論点を選択するために既存の研究文献を渉猟し、さしあたり(i) 最高裁判所・司法行政機関による裁判所統制のための諸手段、(ii) DDR(あるいは共産圏諸国)の司法体制に特徴的な制度である検察官の判決破棄(Kassation)制度、(iii) 「拡大された公衆」(erweiterte oeffentlichkeit)と称される傍聴人動員制度、の3領域を特定して、更に文献を収集・検討することにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の研究テーマは広範な問題領域と関連するため、当初はできるだけ広くいわば「網」をかけて、DDRの裁判、紛争解決制度の性格づけのために有効な論点を拾い上げることがまず必要である。Covid-19に起因する海外での資料調査の延期を余儀なくされたものの、その反面として、当初予定していたよりも広範囲に及ぶ文献調査を行なうことができ、ひとまず、検討の中心に据えるべき問題点とそれを分析するための視角とをかなり鋭角的に設定することができたと思う。その意味で、研究計画はおおむね順調に進展していると評価することが出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で述べた領域での文献調査を継続し、関係文献をできるだけ網羅するとともに、比較的長期間(3週間から1ヶ月)、ドイツの文書館での調査により、テーマに関する公文書を検討する。 とくに検討したいのは、(1)民事訴訟法典の成立過程。DDRの民事訴訟法店は1975年に発効したが、立法作業自体は1950年代末から行なわれており、その結果膨大な資料がベルリンに保管されている。その全体を細かく調査することは困難なので、重要な分科会の議事を分析したい。(2) 検察官の判決破棄の実態。これまでの研究では、刑事事件におけるこの制度の機能について評価が分かれており、また民事事件については余り研究が存在しないので、文書館で資料を探してケーススタディーを行ないたい。
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Causes of Carryover |
Covid-19のゆえに延長していた当初前年度終了予定の別の研究計画にかかる海外資料調査を当該年度に遂行したため、本研究計画のために当初計画では今年度予定していた海外での長期の資料調査ができなかった。そのため、次年度使用額の割合が大きくなったものである。 次年度使用額は、当該年度に予定していた海外資料調査を令和5年度に行なうために使用する。海外資料調査が1年遅れたことに成るが、しかしそのために当該年度は文献調査を広く詳細に行なうことができたので、全体としての研究計画にとっては必ずしもマイナスであったとは考えていない。
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