2023 Fiscal Year Research-status Report
近世近代移行期の日本における西洋法政関連語の訳出に関する研究:蘭語史料を中心に
Project/Area Number |
22K01117
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
山口 亮介 中央大学, 法学部, 教授 (80608919)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 日本法史 / 法の継受 / 法の摂取 / 蘭学 / 洋学 / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、蘭学・洋学関係史料の所蔵機関のなかでも津田真道等の明治期以降の西洋近代法翻訳にも携わる人物と関係が深い津山洋学資料館の所蔵資料を中心に調査を行った。とりわけ、明治3年に箕作麟祥によって訳出されていた『仏蘭西法律書 建国法』が、明治6年文部省刊行版の『仏蘭西法律書憲法』の前提をなす草稿というべき史料であることを確認するとともに、同書における訳語の選定などに江戸後期以来の蘭学者・洋学者らの訳業との繋がりを示唆すると思われる諸要素を確認できた。これ以外にも、同館の所蔵史料につき関連する蘭書のリスト化作業を行うとともに、関連テキストに見られる用語の分析などを一部行うことができた。 このほか、前年度に法・権利概念に関するキーワードの存在を幾つか確認することができたJ.F. van Overmeer Fisscher, Bijdrage tot de kennis vanhet Japansche rijk, 1833についても、その訳書たる『フィッセル日本風俗備考』(山路諧孝(監修)、杉田成卿・箕作阮甫(訳))との対照を行いつつ、関連用語の抽出作業を進めることができた。 また、蘭書ではなく蘭書を出発点としつつその後に進められたフランス法の摂取と受容に関するものではあるが、近代法と伝統的法観念に関する寄稿依頼を受けたことから、『史潮』誌に「明治初期民事裁判手続における伺のなかのフランス法と伝統的観念」を寄稿した。これも本研究と基本的な問題意識を同じくするものである。 なお、この間伊藤孝夫『日本近代法史講義』(有斐閣・2024年)が刊行され、その書評報告の機会を得た。同書には「西洋法の翻訳」という項目が設けられていることにも関連して、この報告のなかでは、日本における「近代」の区分を考える上で、本研究課題の問題意識を踏まえた蘭学を基礎とした法の摂取についての指摘を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、津山洋学資料館をはじめとする資料所蔵機関に出張しての史料閲覧・蒐集作業を進め、資料館から許可を得たものについては史料撮影等を行いながら目録整理等の作業を進めることができた。この意味では、研究は順調に進めることができたといえる。 とはいえ、本年度は史料の把握と読解が中心となったため、その史料整理等の作業を予定していた史料紹介のかたちにまとめるには今しばらく時間がかかり、公表するまでには至らなかった。このように業績公表という意味では進捗はやや遅れていると判断せざるを得ない。 以上のことから、進捗状況は(3)と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2024年度前半期は、本年度までの作業の成果を史料紹介や研究ノートの形式にて順次公表するべく作業を行う予定である。 以上に加えて、夏季休業期間を利用して以上に加えて次年度はライデン大学およびオランダ王立図書館に海外出張を行い、翻訳蘭書の原典テキストや関連テキストの蒐集を行う。それ以後の期間には、その作業を踏まえて訳書と原典の対照分析を進めていきたい。
|
Causes of Carryover |
2024年度にオランダ王立図書館およびライデン大学等における資料蒐集を行う予定であるところ、昨今の急速な円安の進行という事情から、用務地への旅費及び現地での書籍購入等の諸費用に想定以上の費用が見込まれる。 今後も円安傾向はますます進行すると見込まれることから、出張作業の確実を期すために2023年度の執行額を抑え、その分を2024年度の旅費関連に充当して使用するために、調整を行った次第である。
|