2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K01145
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
桧垣 伸次 同志社大学, 法学部, 教授 (00631954)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 表現の自由 / 自己統治 / ルイス・D・ブランダイス / 表現の自由の武器化 / ラーネッド・ハンド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、表現の自由を支える根拠としてしばしば指摘される、「自己統治」の価値について、それがアメリカの最高裁においてどのように受け入れられてきたのかを検討し、現在の表現の自由をめぐる諸問題に示唆を与えるものである。表現の自由は民主政国家にとって重要な権利であるといわれているが、歴史的に時の権力によって弾圧されることもあった。そのため、政府による不当な規制から表現の自由をどのように保護するのかは憲法学にとって重要な課題であり続けた。しかし、近年、表現の自由の「武器化」が指摘されるようになってきた。「武器化」とは、表現の自由は従来はマイノリティ権利を守るための楯であるといわれていたが、現在ではむしろそれらを抑圧するための剣となっているという批判である。 このように、現在では、従来の表現の自由が論じられてきた前提が揺らいでいる。そのため、本研究は、表現の自由をめぐる諸問題を検討するためには、なぜ表現の自由が保障されるのかについて問い直す必要があるという問題認識から出発した。 2022年度は、問題意識をより明確にするために、表現の自由の「武器化」という問題に取り組んだ。具体的には、近年のロバーツ・コートの表現の自由に関する諸判例を分析して、その特徴や問題点を析出した。また、「武器化」の出発点ともいえる、1969年のブランデンバーグ対オハイオ(Brandenburg v. Ohio, 395 U.S. 444 (1969))について、その歴史的意義や判決が形成される過程についても検討した。 関連して、「武器化」の一場面であるヘイト・スピーチの問題にも取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はやや遅れている。当初はルイビル大学ロースクール等にて資料収集を行う予定だったが、それができず、資料収集が十分に行えなかったことが理由である。 ただし、データベース等により入手できる文献や書籍などは十分に収集できている。ブランダイスに関する文献だけでなく、彼に影響を与えたトマス・ジェファーソンやギリシャ共和政に関する資料も多く入手できた。また、国内出張により、問題意識を共有している研究者と意見交換を行うことができた点も重要である。これらをもとにした研究は進んでおり、それにより得られた成果の一部はすでに公表しており、残りは2023年度前半には公表する予定である。 次に、ブランダイスに影響を与えたといわれる、ラーネッド・ハンドについても、研究を進めることができた。予定を前倒しすることになったが、ブランデンバーグ判決について、ハンドの影響という観点から、その意義や形成過程について検討した。ハンドの表現の自由論については謎も多く、その検討に多くの時間を割く必要がある。ブランダイスとの関連について、引き続き検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、ブランダイスが表現の自由論を形成するにあたり、何からどのように影響を受け、どのように理論を発展させていったのかの検討が不十分だった。今後は、まずこの点から研究を進める。ブランダイスの表現の自由論の特徴として、表現の自由論と民主制を結び付けた点が挙げられるが、ブランダイスが両者を結びつけるにあたり、大いに影響を受けたといわれているのが、トマス・ジェファーソンと5世紀のギリシャ共和政である。2023年度では、まずこれらの民主主義論がどのようなもので、それがホイットニー判決にどのように顕れているのかを検討する。 また、ブランダイスに影響を与えた同時代人であるチェイフィーやハンドの表現の自由論についも検討を進める。
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Causes of Carryover |
予定していた出張が不可能となったため、出張費が予定より少なくなった。 2021年度の国内外の出張費として使用する予定である。
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