2022 Fiscal Year Research-status Report
移転価格税制の機能についての再検討を通じた国際租税システムの研究
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22K01151
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤原 健太郎 東北大学, 法学研究科, 准教授 (80802652)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 国際課税 / 課税権 / 移転価格税制 / 租税回避 / 法学方法論 / 田中耕太郎 |
Outline of Annual Research Achievements |
移転価格税制が担う雑多の機能の一つとして租税回避への対応がある。とはいえ、租税回避という概念が、近時の租税法学の議論を混乱させているという危機意識から、法律学の方法論としては、この概念は削除したうえで(社会学的概念としては勿論有用である。)、種々の租税法の制度の目的を一々特定する方が生産的であるという認識を強くし、論文とした(その副産物として、移転価格税制のある意味での進化形態ともいえる一般的否認規定は、その理念が見えないことも指摘した。)。 同時に、戦後民法学が経験したような法学方法論についての議論を租税法学が受け止めてこなかったためか、或いは、経済分析のような新しいアプローチに流れたためか、原因は特定できていないが、いずれにせよ、租税法の方法論を探求することが重要であるとが急務であることに気づいた。特に、国際課税システムは、その基本的設計者がOECDなどの国際的フォーラムの誰かであることもあり、また、国際政治力学に左右される面もあることから、益々その追求する理念が見えなくなっており、それゆえに、まずは適切な研究方法論を打ち立てることが必須である。かかる作業は、当初の研究計画においてあまり重視しておらず、その意味で研究の最終目標との関係ではやや迂回となるが、国際課税研究が真に「法律学」たる地位を得るために欠かせない。 2022年度は、戦後民法学をモデルに方法論の探求を行いつつ、他方で、BEPS2.0のような国際課税システム構想が、ある側面では、法内容の国際的統一とも見えることに鑑み、この分野の先駆的研究たる田中耕太郎の著作を精読した。以上のメタ・レベルの研究を行う一方で、移転価格税制や時価課税制度の根幹をなす「価格」概念を法的に如何に観念すべきか、というベタ・レベルの研究も行っている。ただ、論文として公表するには至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
正直に述べれば、(2)か(3)かは微妙である。当初は、外国法研究の前提としての日本の状況を整理することが本年度の目標であった。それをベースラインとすれば、「やや遅れている」と評価されるかもしれない。実際、次年度に残す課題も見受けられる。他方で、本年度において、方法論としての足場を自分なりに固めることができたという意味においては、「順調に進展している」ともいえる。方法論が作動するのは、もっと先のことだと思っていたからだ。そのうえ、日本法についても、国内取引における移転価格税制の範型ともいえる法人税法22条2項について、先行研究の整理とその機能面の研究についてかなり進展したといえるからだ。 もっとも、実際に公表できた論文は多くはない。学会報告も、「フォーマル」と形容できるような場での報告はなく、執筆途中の論文の構想について意見交換している程度である。これも、筆者の遅筆ゆえのことであるが、研究者の本分は、論文を執筆することにあると思うので、最終的に自戒の意もこめて(3)とした。遅筆の背景には、研究以外の学内用務に時間をとられてしまった。もっと効率的にこなす方法もあったかとは思うが、現在の勤務校に着任して間もないこともあり、ノウハウを十分に獲得できていないことにあるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、田中耕太郎・折茂豊を代表とする商法学・国際私法学の知見が国際課税研究にどれだけ有効に作用するかを検証する。とりわけ、技術的性格の濃厚な租税法学は、法の統一的性格を強く顕在化させるポテンシャルを秘めている一方で、国家間での税源の取り合いという政治力学の影響を強く受ける分野だけに、射程の測定は容易ではない。少しずつ文献を読み進めつつ、多角的な研究を続けていきたい。 これまでの研究を踏まえて、研究課題遂行上、これまで十分に認識していなかった論点を発見したことに伴い、同時並行的に、以下についても研究計画に位置づける。 移転価格税制は、いわゆる法人所得税の領域の議論であるが、他方で、所得課税のみを勉強するのでは視野が狭窄する。移転価格税制が機能的には国家間の税源配分に関与する機能を営んでいる以上、また、さまざまな税制との比較という見地が不可欠である。その意味で、近時の主要な租税たる付加価値税についても適宜研究に収める。いわば、移転価格的発想を有していない租税制度との対比によって、移転価格税制の機能を浮き彫りにさせるということである。タックス・ミックスの視点を導入するということである。外国研究という意味では、ヨーロッパ諸国+EUの制度研究を行う。 加えて、民法学(たとえば、契約法・信託法)での枠組みに租税法学が大きく規定されていることも浮き彫りになっているので、そこでの研究成果も随時フォローすることとしたい。 以上にくわえて、国際課税は、システムとしての側面がある。たとえば、社会学のシステム理論の知見を活かせるかどうかも検討する必要があろう。
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Causes of Carryover |
研究の進展が若干遅延気味なのは否めないが、物品費(文献購入費等)については、概ね収支が計画通りである。とはいえ、発注した書籍の刊行が遅れているものがある。また、3月末に刊行された文献が多く、購入すべきか否かについて判断が迷ったものもある。したがって、残金は、2023年度当初に、書籍の購入という形で使用する。 他方で、対面の研究会等がほとんどなく旅費の使用が予想より少なかった。今後、その反動で出張が増えるかもしれない。「その他」として掲げた費用については、特に2022年は使用することがなく、それが、最終的に次年度使用額につながった。この分については、今後の文献購入に充てる。
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