2022 Fiscal Year Research-status Report
自由競争減殺型公正競争阻害性の研究-予防的規制の再定位
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22K01189
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川濱 昇 京都大学, 法学研究科, 教授 (60204749)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 競争プロセス / 消費者厚生基準 / 新ブランダイス主義 / 公正競争阻害性 / 市場支配力基準 / 効率性 |
Outline of Annual Research Achievements |
自由競争減殺型公正競争阻害性と競争の実質的制限の関係を論じるにあたって、母法であるアメリカ反トラスト法におけるFTC法5条の立法目的及びその後の変遷を検討した。まず、米国では40年間にわたって、FTC法5条の独自性を否定する形で議論が進展してきたことを確認した上で、立法時点での背景事情の確認を行った。 この問題は、現時点では単なる歴史的関心を超えた重要性を米国では持っている。新ブランダイス主義の反トラスト法思想の法理論的拠り所の1つがクレイトン法、FTC法の立法意図であり、重要戦略がFTC法5条に基づく規則制定等の活用だからである。 本年度はまず、新ブランダイス主義の反トラスト思想をFTC法とクレイトン法の制定を推進したブランダイスの反トラスト思想、特に規制された競争概念に遡って検討した。これは、消費者厚生基準に対置されるなんらかの競争基準の起源でもある。この概念はあいまいな点もあり、法の指針としては取扱い難い点がある。それが、この概念が退潮した理由でもある。本年度の検討では、規制された競争概念は、市場支配力を抑止するためのものであり、その概念が含意されるとされる多様な社会的・政治的目的も、市場支配力の形成や強化の危険性を抑止することによって実現するものと位置づけることによって、その概念を整合的に再構成できることを示し、そこに新ブランダイス主義を反トラスト法の伝統に正当に定位することにつながることを明らかにした。 並行して、支配的デジタル・プラットフォームの排除的行為の分析も行った。これは、今日予防的規制がもっとも望まれる分野であるが、それらの排除戦略の内、特にプラットフォームの特性を梃子にしたものを取り上げ、その反競争効果の発生機序を解明した。市場支配力保有者に対する予防的規制は、公正競争阻害性の1局面であるが、これを明示的に取り上げるための準備作業にあたる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今日予防的規制がもっとも重要な意味をもつであろう、支配的デジタル・プラットフォーム事業者の排除行為について、その市場特性を活用した独特のTheory of harmの問題を分析した。これは、市場支配力を前提とした追加的な反競争効果に着目した予防的規制の正当化を試みる研究の土台にあたるさぎょうである。本年度はこの土台部分の研究を進めるとともに、母法国における予防的規制の歴史研究も行った。特に、規制された競争概念は、予防的規制の理論的正当化に不可欠な競争プロセス論の起源となるものでもあるが、その歴史的意義を確認した。その上で、それがもちうる現在的意義を新ブランダイス主義の主要理論家の議論に即して解明した。この作業は本来は2年目に行う予定であったが、それを前倒しすることとなった。この点では想定以上に研究が進展したといえるが、本研究の対象となる予防的規制に関して最近の欧州の立法動向をどのように位置づけるのかが問題として浮上してきた。欧州ではこれを競争法とは独立した事前規制と位置づけるのか競争法の一内容と見るのかをめぐって議論が錯綜している。本研究は競争法の重要な構成要素として予防的規制を定位するためのものであるが、欧州の一部の理論では、予防的規制を異質なものと考える立場も見られる。この問題を考察するには、欧州における目的における制限を競争法の中でどのように位置づけるのかという問題にも対処する必要がある。当初の研究計画は想定以上に順調に進展したが、新たな課題にも取り組む必要が出たことから(2)のおおむね順調に進展しているという評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況でも触れたように、当初の計画にはなかった欧州における立法動向と目的による制限の問題に取り組む必要が出てきた。目的による制限は通常は101条の問題であるが、102条の中にも実質的に目的の制限と位置づけられるものも見られる。これらを対象にそれらの規制のでTheory of harmの位置づけ及び内容の検討という新たな課題に取り組むことも計画に加えた。また、当初から研究計画の重要部分としていた競争プロセス論の日本法における位置づけの問題についても研究を進め、できるだけ早い段階で公表する予定である。
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Research Products
(1 results)