2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K01213
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
森川 恭剛 琉球大学, 人文社会学部, 教授 (20274417)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 米国民政府刑事裁判所 / 沖縄の売春 / 売春罪 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ統治下の沖縄における米軍刑事裁判所の機能を実証的に解明しようとするものである。沖縄を占領した米軍は、沖縄住民に対して一方的に刑罰法令を発布して刑事裁判権を行使した。琉球大学附属図書館にその裁判記録の複写資料が保管されている。本研究は、その記録を整理し、占領政策の変遷過程と関連付けながら、どのように占領刑法が沖縄の住民に対して運用されたのかを調査する。 初年度は、裁判記録のスキャニング作業を進めたほか、米軍法令の売春罪について研究ノート「戦後米軍刑法と強制売春(4)」「同(5)」の2編をそれぞれ琉大法学106号及び107号に発表した。 前者で紹介した資料は1960年代以降の琉球政府裁判所で審理された営利誘拐罪や児童福祉法違反事件のうち売春に関するものであるが、これを用いて1950年代の米軍刑事裁判所における売春等事件との比較を行い、1960年代の沖縄で、売春をする者に対する売春を理由とする差別的取扱いがみられるのは、1950年代に米軍法令の売春罪が差別的に運用されていたからであることを示唆した。 後者は、沖縄の米軍法令の売春罪が売春差別を作出・助長したとの認識に基づき、売春が違法であるか否かではなく、売春差別の違法性を問題にすべきことを指摘した。売春の廃止主義によれば、売春が性的な被害として経験されるのは、買春行為に性的な暴力性があるからである。しかし売春罪等の犯罪歴の取消嘆願書を検討したところ、売春の経験が語られにくいのはむしろ売春差別があるからであることが理解できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は「沖縄戦後史」を対象とする刑事法研究であり、その作業仮説は、刑事法学の観点から、1950年代の終盤に沖縄の米軍基地問題の分岐点をみて、同時期以降に米軍刑事裁判所の機能が、琉球政府裁判所に引き継がれ、さらに日本復帰後は日本の裁判所に引き継がれていくとするものである。その機能とは、憲法に拘束されない刑事法を運用して沖縄の住民の権利を侵害するというものである。それは現代的には例えば日米地位協定の実施に伴う刑事特別法が、在日米軍基地問題における沖縄差別を助長するように沖縄県民等に適用されるところに現れている。本研究は、これが米国統治下の沖縄に由来する法現象であり、憲法のある日本では許容できないはずのことであると論じようとしている。 初年度は「沖縄戦後史」のその具体的な事例研究として米軍法令の売春罪の運用状況に注目し、その差別機能の解明を試みた。当初の予定では、初年度に1950年代前半まで、2年目に1950年代中盤、3年目に1950年代終盤以降の裁判記録を整理した上で、事例研究に着手することを考えていたが、沖縄県で差別のない社会づくり条例案が検討されていたこともあり、刑事法の差別作出・助長機能に関する考察を優先させた。そのため裁判記録を整理する作業に遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
売春罪に関する研究ノートの執筆を継続し、刑事法の差別作出・助長機能について考察を深めていく。また、裁判記録を整理し、すべての売春関連事件を拾い出して一覧できるようにしたい。 特に2年目は裁判記録の分析枠組みを明確にしたいので、刑事法の差別機能に関する考察を進める。そのために障害法学やジェンダー法学の分析方法を用いて優生手術裁判を例にとり、第1に刑事法が具体的にどのように差別を作出・助長するのか、第2にその差別機能がどのような意味で憲法14条1項に反するのかを解明したい。 売春罪との関連では、1959年に起きた「コザ女給殺し事件」について調査し、アメリカ統治下の沖縄では売春する者が殺害されても犯人が検挙できず、迷宮入りする事件が少なくなかったことを、売春差別との関係で論じる予定である。
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Causes of Carryover |
国内旅費に未使用分があったため3万5千円程度の次年度使用額が生じた。物品費または旅費として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)