2023 Fiscal Year Research-status Report
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22K01213
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
森川 恭剛 琉球大学, 人文社会学部, 教授 (20274417)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 米国民政府裁判所 / 売春罪 / 刑法の差別的機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
1945年に沖縄を占領した米国は、沖縄の住民に対して一方的に刑罰法令を発布して刑事裁判権を行使した。琉球大学附属図書館にその刑事裁判記録の複写資料が保管されている。本研究は、その記録を整理し、占領政策の変遷過程と関連付けながら、どのように占領刑法が沖縄の住民に対して差別的に運用されたのかを調査するものである。 2023年度の研究成果として研究ノート「戦後米軍刑法と強制売春(6)」「同(7)‐コザ女給殺し事件の被害者の記録‐」を琉大法学108号、同109号に発表した。また、「差別犯の違法性」と題する論考を『ヘイトクライムに立ち向かう(仮題)』(日本評論社・2023年予定)に寄稿したが、こちらは刊行が遅れている。 研究ノート(6)は、戦前に沖縄の辻や台湾の軍慰安所で働き、戦後も軍窃盗や売春をして何度も有罪判決をうけた一人の女性の裁判記録を、米軍基地内の女児に対するわいせつ行為等で同様に何度も有罪判決を受けた精神の障害のある一人の男性の裁判記録と並べて紹介した。これらは米国の利益のために、刑務所・精神科病院の入退所・入退院と犯罪とされる行為とを繰り返し、そして売春差別・障害差別の被害を受けた個人の記録である。 研究ノート(7)は、1958年末にコザ市(現沖縄市)で起きた殺人事件の被害者の売春罪に関する裁判記録を紹介した上で、琉球政府裁判所で裁判のあった殺人事件の事実認定や犯行態様等にみられる売春差別を分析した。 論稿「差別犯の違法性」は、ヘイトクライム事件の分析を通して、刑法の差別的機能を分析する際の差別概念について解明を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、米国の占領刑法が沖縄の住民に対して差別的に機能したことを実証的に解明するものであり、その主な分析対象として売春事件を選んでいる。この点に関する研究ノートは、年2回の研究紀要の発行に合わせて継続して執筆できている。しかし2023年度は個々の人物や事件を取り上げたため、全体的に裁判記録を整理して、全事件を目録化し、占領政策との関係を考察するための作業を進めることは停滞した。 他方で、刑法の差別的機能に関する考察では、ヘイトクライムの違法内容として差別の作出・助長の効果があること、また、それを平等侵害として把握できること、ただし、そのためには平等概念を行為論的に再構成する必要のあることまでを論じた。これは平等の価値の法益論的考察であるといえる。しかし、具体的にどのような刑法の運用において、この平等侵害が見て取れるのかは、十分に考察できなかった。 上記の2点での2023年度の研究計画は、やや遅れを生じることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
売春事件に関する研究ノートは、2024年度中に、裁判記録に残るすべての売春関連事件を一覧表にして整理する作業に着手し、米国民政府や米軍の売春政策と関連付けて、売春罪等の運用実態を解明していきたい。その際、研究ノート(3)(2022年)で1958年の事件について行ったように、売春罪・売春助長罪等の各犯罪類型について起訴人員数、有罪率、量刑、弁護人選任率等を比較・分析することにする。 また、刑法の差別的機能の一般的考察については、2024年度中に、堕胎罪と中絶権との関係、及び中絶権と出生前診断による選択的中絶との関係を分析し、刑法の障害差別機能を解明する論稿を執筆して完了したい。 2024年度は後者から作業し、これを終わり次第、前者に着手する予定である。
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Causes of Carryover |
旅費の執行率が65%であることが次年度使用額の生じた主な理由である。これは当初アメリカ国立公文書館で琉球列島米国民政府法務局関係の資料収集をするための経費を含んでいたが、その主な目的の資料が、キュレーターとやり取りをする中で、必要とする情報を含んでいないことが明らかになり、2023年度のアメリカ出張を取りやめたからである。 2024年度の研究を進める中で、収集すべき資料を再検討し、2025年度以降に海外出張の予定を立てたい。
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Research Products
(2 results)