2022 Fiscal Year Research-status Report
委任者の要求が専門的受任者の裁量に及ぼす影響-弁護士と医師の比較を通じて
Project/Area Number |
22K01228
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
栗田 晶 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (30547336)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 医師の裁量 / 治療方法の決定 / 役務提供契約 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、弁護士及び医師との委任契約を素材として、専門的受任者との委任契約において事務処理方法の特定に向けた委任者の要求が受任者の裁量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。委任事務の内容が高度に専門的である場合、委任者の要求を契機として、受任者が委任者意思を確認し、委任者の要求を「指図」へと明確化することが必要となる。本研究では、委任者の意思決定はいかなる対象に及ぶのか、「指図」へと明確化される以前の委任者の「要求」はいかなる法的作用を有するのか、医師と弁護士とではその裁量枠組みにいかなる違いがあるのかを明らかにすることが重要な意味を有する。 そこで、2022年度は特に診療契約における治療方針の決定に関する医師の裁量と患者の意思決定との関係に焦点をあて、考察を行った。患者の承諾は、治療行為の受入れに関する自己決定としての性質と侵襲行為の違法性阻却事由としての性質を備えており、これと関連して患者の意思決定の対象も治療行為の身体への受入れに向けられたものとして把握されてきた。本年度は、この把握方法が、医師は治療方法の決定について裁量を有するとする従来の理解との整合性を維持しつつ、医師の説明義務の範囲に限定を加える役割をも担ってきたことを明らかにした。 そのうえで、医師が裁量により治療方法を決定することを前提に患者の意思決定の対象を治療行為の受入れに限定する見方と、患者の意思決定が治療方法の決定にも及ぶことを前提にその限りで医師の裁量を限定する見方とを対比しつつ、患者が明確な指図を行った場合に、医師はその医学的見解に反して患者の意思に沿う治療行為を行う義務をいかなる理論の下でいかなる範囲で免れることができるか、患者の意思決定を治療方法の決定に及ぼす枠組みの下では医師に過剰な説明義務を生じる可能性があるが、医師の説明義務の範囲をどのように限定し得るかについて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の過程で患者の意思決定を治療行為の自己の身体への受入れに向けられたものと捉える枠組みが、医師は治療方法決定について裁量を有するとする従来の医師の裁量に関する理論との整合性を維持するとともに、インフォームドコンセントの際の説明義務の範囲を限定する役割を担っているとの可能性が明らかになったことに伴い、追加資料の収集分析等が必要となったことによる遅れである。おおよそ1か月程度の遅れであり、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、診療契約における医師の裁量と患者の意思決定との関係についての考察の成果をまとめた後、弁護士との委任契約に関する考察を行う。依頼者の要求が弁護士の裁量に与える影響について明らかにする。診療契約では当初契約の枠内で診断から治療まで行われるのに対して、弁護士との委任契約では、相談後、個々の方策ごとに個別に委任契約が締結されるのが一般的である。こうした契約締結方法上の特質が弁護士の裁量にいかなる影響を及ぼすかについても考察を加える。以上の考察については、裁判例の考察の他、弁護士を対象とした聞き取り調査などを行うことも予定している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額を生じたのは、予定よりも少ない出張回数で必要な資料を収集すること、2022年度に予定していたプリンタートナーの購入の必要がなく、消耗品費を低くおさえることができたことによる。次年度使用額は、2023年度の請求額とともに、物品購入費、旅費として使用する。
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