2023 Fiscal Year Research-status Report
新たな国際取引紛争解決システム構築の必要性と日本の貢献
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22K01239
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
伊藤 壽英 中央大学, 法務研究科, 教授 (90193507)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 国際倒産 / ADR / 国際調停 / シンガポール調停条約 / 調停前置主義 / アメリカ連邦破産裁判所 / 世界銀行 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、国際取引分野における多数当事者に係る倒産処理及び国際商事調停の拡大に関する課題に研究の焦点を当てた。 第一に、近時の地域紛争(ウクライナ、中東など)の激化の影響受け、国際取引に関係する倒産事件が増加する可能性を踏まえ、とくにサプライ・ネットワークに組み込まれた多くの企業が倒産処理に参加するには、国際的な倒産ADRの利用が必要であると仮定した。そこで、アメリカ破産法における調停前置主義の実務を参考に、倒産とADR(仲裁・調停)に関する比較法的分析を行い、さらに世界銀行・インド・シンガポールなどの実務についてサーベイし、わが国の対応について検討した。アメリカでの経験から、とくに多数の当事者が関与する倒産手続には、裁判所の公的関与(サマリー・ジャッジメントの申立、相殺の中間判決など)が実際的でないこと、当事者間の話し合いにおいて、調停人に対する信頼が重要であることなどが明らかになった。また、世界銀行が提供している倒産実務プログラムでは、ADR手続にトレーニングが重要となっていることが認められた。わが国では、依然として、裁判所の関与による倒産処理が主流であるが、国際倒産処理とADRについて、さらに理論的実務的検討が必要である。 第二に、わが国が国連シンガポール調停条約の加盟・批准したことから、とくにアジア・太平洋地域における国際取引紛争におけるわが国の役割と、国内法整備の意義について検討した。わが国は、締約国の中で最大規模の経済を有するところから、国際紛争処理制度における役割が期待されるところ、国内法の整備だけでなく、国際的な実務、とくにADRの運用において、国際的な貢献が期待できる。人材育成・交流を含め、具体的な方法や制度についての研究課題が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、多数の国際企業が関与する国際倒産手続とADRの関係は、検討対象となっていなかったが、近時の地域紛争がグローバルなサプライチェーン・ネットワークに影響を与え、一部企業の破綻が多数の関係企業にもリスクをもたらすこととなった。一般的には倒産法とADRの関係についての理論的な分析が必要となり、とくにアメリカ連邦破産法における調停前置主義の実務を参考にすることとなった。 次に、2023年、国連シンガポール調停条約の承認と加入書寄託がなされ、関連する国内法も整備された。その内容と残された問題点について、理論的な検討を行ったが、その将来への影響については、なお注視する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
多数企業が関与する国司倒産処理とADRの関係については、アメリカ連邦破産法の実務を参考に、比較法的分析をさらに進める必要がある。とくに、わが国の倒産実務にとって、多数当事者の利害調整と国際的な対応というのは、かなりの難問であり、また見解が分かれるところでもある。他方で、シンガポール調停条約加盟によって期待されるわが国の役割から、比較法的な分析により、国際取引紛争解決制度構築のための理論的基盤を提供することが必要であり、さらにわが国において伝統となっている様々なADRの知見を敷衍し、そのインプリケーションを国際的に共有できる仕組みについても考察する必要がある。これまでの研究によって蓄積された研究者・実務家のネットワークを活かし、以上の課題について研究を推進する予定である。
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Causes of Carryover |
(1)調査・研究のための海外出張において、インタビューを予定していた先方の都合により、出張期間を短縮したため。 (2)急激な為替変動の影響により、予定していた機器の購入を次年度に繰り越したため。
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