2023 Fiscal Year Research-status Report
持続可能な法人後見制度構築に向けた民商法共同の総合的研究ー適格性問題を中心に
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22K01249
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
上山 泰 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (50336103)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内田 千秋 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (40386529)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 成年後見制度 / 法人後見 / 障害者権利条約 / 地域共生社会 / ドイツ世話法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、定例研究会を3回(Zoomを利用したオンライン会議の方法により2回、新潟大学における対面で1回)実施したほか、8月には韓国ソウル大学において韓国の民法研究者等との研究会を行った。第1回研究会は、佐賀県社会福祉士会及びKAERU株式会社をゲストスピーカーに招き、①専門職後見と法人後見の棲み分け及び連携の在り方、②キャッシュレス社会における判断能力不十分者の日常金銭管理支援の在り方について意見交換を行った。佐賀県社会福祉士会は、同会所属の社会福祉士による成年後見業務をすべて同会による法人後見の形態で遂行するという特色を有しており、一般的な専門職後見と比較した法人後見の優位性に関する有益な示唆を得ることができた。第2回研究会は、新潟県社会福祉協議会をゲストスピーカーに招き、新潟県内の市町村社協等による法人後見の実情及び中核機関の設置状況等について報告を受けた。第3回研究会では、本年度の各自の研究の進捗状況を共有し、来年度の研究計画を協議した。韓国での研究会では、研究代表者から日本の成年後見法改正の動向を報告した上で、主に障害者権利条約との整合性に関する日韓の成年後見制度の課題点について意見交換を行った。 また、本年度は法人後見の実施状況やその支援体制を中心に、法人後見実施団体を中心として、各地でのヒアリングを行った。主なヒアリング先は、あいづ安心ネット、群馬県社会福祉協議会、秋田県社会福祉協議会、新潟県社会福祉協議会、愛知県弁護士会、知多地域権利擁護支援センター、埼玉司法書士会である。 比較法研究については、代表者がドイツ、分担者がフランスについて、それぞれ文献調査を進め、翻訳の公表等の一定の成果を上げた。 研究成果の発信としては、論文等3本を公表したほか、韓国ソウル大学の国際会議(2023韓日高齢者・障害者権利擁護大会)で研究代表者が報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、定例研究会におけるゲストスピーカー報告と、各地の都道府県社会福祉協議会をはじめとする多数の法人後見実施団体や専門職団体等に対するヒアリング調査を通じて、わが国における法人後見の実施体制の整備状況に関する地域間格差をめぐる課題点を中心に、現在のわが国における法人後見のメリットとデメリットを明らかにすることができた。また、今回の調査を通じて、新たに多数のヒアリング候補先の情報を得ることができ、来年度以降の調査計画の充実を図ることができた。 海外調査については、研究代表者が委員として参加していた「成年後見制度の在り方に関する研究会」においてドイツ法の調査報告を委嘱された関係で、当初予定していたドイツ法についてはこのための文献調査を通じて相当の進捗を得られたこともあり、日韓合同の研究会の実施を含めた韓国での調査に切り替えた。この研究会を通じて韓国における成年後見制度の知見を深めることができたほか、来年度以降も継続して韓国の研究者らと日韓の成年後見制度に関する研究交流を実施できることとなった。なお、研究代表者が担当したドイツ世話法の調査については、前記の研究会において報告をするとともに、その成果が、商事法務編『成年後見制度の在り方に関する研究会報告書〔付・諸外国における成年後見制度についての調査報告書〕』(商事法務、2024)の第2部第3章に収録された。 また、フランス法の調査についても、研究分担者が関連する翻訳を公表し、着実な進捗を得た。 成果公表についても、本研究に係る論文等3本を公表したほか、研究代表者が、韓国ソウル大学の国際会議(2023韓日高齢者・障害者権利擁護大会)において、「日本における成年後見法改革のための立法動向」と題する研究報告を行った。また、研究代表者が、成年後見制度利用促進専門家会議のほか、第421回消費者委員会本会議でも関連する口頭報告を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度についても、年3回ないし4回の定例研究会を中心に研究を実施する。本年度は、法人後見に対する地域の支援体制(いわゆる法人後見支援員としての市民後見人研修修了者の参画等の支援人材のリクルート体制を含む)の在り方についての研究を深めるために、社会福祉学の研究者等をゲストスピーカーとして招く予定である。加えて、財源論についての考察を深めるため、社会保障制度の財源論に詳しい知見を持つ社会保障法学の研究者等をゲストスピーカーに招く予定である。また、本年度の調査を通じて、新たなヒアリング調査計画を立てることができたため、本年度までの調査で回れていない地域を中心に法人後見実施団体のヒアリングを行っていくこととする。 さらに、研究代表者が委員を務める厚生労働省の成年後見制度利用促進専門家会議、及び、法務省の法制審議会民法(成年後見等関係)部会で関連する審議が進んでいるため、その場を活用した情報収集と研究成果の発信に努めるつもりである。 比較法研究については、引き続きドイツ及びフランスの法人後見の実施体制に関する文献調査を中心としつつ、本年度の研究交流の成果を踏まえて、さらに韓国における制度の実態についての調査研究を進める予定である。また、ドイツ世話法に関する本年度の調査研究(ドイツ民法上の規制を中心とした調査)をさらに深める形で、ドイツの成年後見制度の運用体制を規定する行政法規である「世話組織法」の詳細な研究を行い、その成果を所属機関の大学紀要等を通じて発表することとする。 最終年度となる令和7年度については、来年度までにおおむねの検討を終える法人後見の組織論と財源論を踏まえた上で、法人後見実施団体としての適格性を適切に評価するための評価方法論を中心に研究を進め、本研究全体の総括を行う予定である。
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Causes of Carryover |
ドイツ法に関する海外調査が文献調査の手法によって相当程度実施できたため、本年度におけるドイツへの渡航を見送ったことで、海外旅費の支出が不要となった(代わりに、韓国での海外調査を実施したが、研究代表者の国際会議の招待講演に合わせて実施したため、旅費及び滞在費の一部が会議主催者側の支出となり、海外調査の経費が大幅に削減できた)。同様に、国内ヒアリング調査のいくつかについて、研究代表者の招待講演に合わせて日程を組む等の工夫をしたため、国内旅費についても一定額を削減することができた。 また、コロナ禍の影響で研究代表者が有する別の関連する科研費の期間が延長となり、こちらが最終年度であったため、両研究に共通する文献の収集にあたっては、そちらからの支出を優先した関係で物品費に関する支出が当初予定していた額よりも少なくなった。 繰り越し分については、本年度の国内外の調査旅費に充てるほか、比較法対象であるドイツ世話法が2023年に全面改正された関係で、本年度もきわめて多数の関連書籍が発刊される見込みであるため、文献収集に係る物品費として活用する予定である。
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