2022 Fiscal Year Research-status Report
包括担保・事業担保における相殺の対抗の意義ーー動産・債権担保法改正の議論との関係
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22K01260
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
小山 泰史 上智大学, 法学研究科, 教授 (00278756)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 動産・債権担保法改正 / 事業成長担保権 / 動産譲渡登記 / 物上代位 / 相殺 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2017年民法改正により、自働債権が差押え「前の原因」に基づいて生じた場合にまで相殺を認めることで、自働債権と受働債権の相殺適状の要件を緩和して拡張された相殺期待が、流動動産譲渡担保の価値変形物に対する物上代位との関係で、倒産手続以前の個別執行段階においてどこまで保護されるべきかをまず検討することとしている。 2020年から法制審議会担保法制部会で開始された「動産・債権担保法改正」の検討は、2023年3月20日までに「中間試案」に対するパブリックコメントを募集するまでに到っている。担保権に基づく物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣関係については、「案2.2.5.1 担保権に基づく物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣は、……差押えがされた時点と、その目的債権を目的財産とする担保が対抗要件を具備した時点との前後によるものとする。」と、「案2.2.5.2 担保権に基づく物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣は、元物に設定された担保権が対抗要件を具備した時点と、その目的債権を目的財産とする担保が対抗要件を具備した時点との前後によるものとする。」の2案が示された。 これまで、中間試案までの検討過程をつぶさに研究してきたが、新たな動産担保権について、対抗要件制度がどうなるか等、物上代位に関する規律がどのようになるのかは、現時点では不明確である。また、担保法制部会第12回議事録によれば、上記の2案については、明文化によって抵当権の物上代等の判例の規律に影響を及ぼす影響などを考慮して、新たな規定を置くべきでない、という意見が有力であった。これらの規律の帰趨が、相殺との対抗にも直接的な影響を及ぼすことが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年4月から開始された上記「動産・債権担保法改正」に関する審議過程の検討は、概ね順調に推移している。もっとも、上記「中間試案」から今後どのように法改正がまとめられていくのかは、現時点ではまだ先を見通すことはできない状況にある。 そこで、まず「中間試案」までの物上代位に関する議論を原稿にまとめる方向で準備を進めることを決定した。中間試案に到るまでの第1読会の検討と、第Ⅱ読解までの検討過程をフォローしつつ、それらの議論が上記「中間試案」にどのように結実しているのかをまとめることが、今後まず求められる。その検討においては、単に物上代位に関する議論をフォローするだけでなく、特に流動動産譲渡担保に基づく物上代位との関連で、担保設定者が「通常の営業の範囲」(審議過程の表現では「通常の事業の範囲」)内で担保目的財産を処分する権限を有している間は物上代位をすることができないとする最決平成22・12・2の規律が、物上代位の可否を決する重要なファクターとなることを看過することができない。 その一方で、研究計画上もう一つの重要な柱である「事業成長担保権」については、法制審議会でも議論が提起された初期段階にとどまり、「中間試案」でも「なお検討を継続する」という表現にとどまっている。しかし、金融庁は、2023年2月段階で既に立法化を法制審議会の議論より先行させる動きを明確にしており、法制審議会担保法制部会も、その動きを容認するものと言われている。今後は、担保法制部会の議論を継続してフォローしつつ、事業成長担保権の先行立法化の動きも同時に追求していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究計画は、大別して3つの柱から構成される。 第1に、既に言及した法改正における物上代位の規律の検討を論文にまとめることである。現在、法制審議会担保法制部会における議論をまとめているところであり、今年度中に原稿の形で公表することを予定している。公表先は、上智法学論集か、査読のある商業雑誌、例えば判例時報や民商法雑誌等への寄稿を考えている。 第2に、事業成長担保権に関して、比較法的な検討を加えることである。金融庁の議論では、債務者(担保設定者)の事業全体を担保の目的とするため、事業の乗っ取り等の制度的濫用を防ぐ目的から、事業成長担保権の担保権者を金融機関に限定する案が示されている。この方向は、参考とされている企業担保法や、英米における浮動担保(floating charge)とも異なるものである。しかし、カナダ法においては、浮動担保がイングランド型であった時代から、銀行のみが利用できる包括担保が存在した。それが、Bank Act Security(銀行法担保権)である。その検討は、事業成長担保権に関する議論にも参考となることが予想される。そこで、本年度は、比較法的な検討として、このBank Act Securityを取り上げることとする。その検討のために、今年度中にカナダへの出張を実施することを予定している。 第3に、既に公表した10本程度の自己の論文を、2冊目の論文集にまとめる作業に着手する。法制審議会担保法制部会における法改正が結実すれば、筆者のこれまでの論稿は新制度以前の状況を記述した「古典」となってしまうため、法改正がなされるまでにこれまでの議論をまとめておく必要が生じている。しかし、単に過去の原稿を収録するだけでは、動産・債権担保法改正との関係でどのような意義があるのかが鮮明でないため、それらの点を追記してまとめる必要がある。
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Causes of Carryover |
毎年購入している洋雑誌の2022年度における刊行がない等、コロナ渦の影響か、予定していた洋雑誌の購入計画に見込みとのずれが生じていた。また、Canadian Business Law Journal等、購入できた洋雑誌についても、円安の進行により研究計画作成時よりも年度あたりの単価が著しく上昇し、支出の増加が生じた(約1.8倍の支出増)。加えて、Amazonより購入しようとした洋書(単行本、単価約5万円)について、業者より納入不可との連絡がなされたため、キャンセルとなった。 以上のように、円安や雑誌の刊行状況、また、発注済みの書籍の業者からの一方的キャンセルなど、予期せぬ事情が重なったため、2万円あまりの残高が生じた。残高としては少額であり、2023年度の予算に合算して速やかに執行する予定である。
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