2022 Fiscal Year Research-status Report
Restructuring Governance of Property Management for the Elderly Person's Assets
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22K01293
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
佐藤 勤 南山大学, 法学部, 教授 (50513587)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 信託 / プロテクター / ガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国においては、高齢者人口が増加しているにもかかわらず、高齢者の財産管理制度である成年後見制度はあまり利用されていない。そこで、本研究は、高齢者や心身障害者(以下「高齢者等」という)の利用しやすい、かつ安全な財産管理制度の提言を研究目的とする。 特に、本研究は、英米で高齢者等の財産管理の仕組みとして実績のある「信託」について、社会的弱者である高齢者等を受益者とする信託の保護機能を、より強化・充実させるために、受託者のガバナンスの再構築を目指すものであり、高齢化社会の進むわが国において社会的意義のある、かつ学術的な独自性が高い研究である。さらに、本研究の研究成果により、高齢者等の日常生活を支援する安全な財産管理制度が構築できれば、来るべき超高齢化社会をより暮らしやすい社会とすることができ、社会に対し多大な貢献のできる研究である。 高齢者等の財産管理に資する信託の場合、将来の不確実な社会情勢や経済情勢を想定した詳細な信託条項を作成することは不可能なこともあり、広範な権限が財産管理主体に付与されるとともに、信託設定者の意思を実現するための柔軟な制度運用が求められる。また、高齢者等の財産管理は、「高齢者等の存命中」から、その者の死後に「財産を承継する者が、主体的に財産管理できる」までの長期にわたり行われる。 そのため、高齢者等の財産管理を目的とする信託においては、①「誰」を、または「どのような法主体」を受託者とするべきか、②その者をどのように「監督」・「規制」すべきか(法人が受託者となる場合、どのような機関を設け、ガバナンスを行うか。個人が受託者となる場合、その者をどのように監督すべきか)、が課題となる。 そこで、本研究では、上記①・②の課題について、具体的な仕組み、法制度を提言できるまで、明らかにすることを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年当初計画では、イギリス法を調査し、高齢者等の財産管理の仕組みがどのように変遷し、改革が行われたかを、文献調査を中心に行うこととなっている。 この当初計画に則り、イギリス法の文献を中心に信託のガバナンスについて、研究を行った。その成果の一部は、従来から行っていた研究の成果である論文である「イギリスにおける受託者概念の変遷」において、公表した。 この研究において、イギリスの海外資産保全信託(off-shore asset protection trust)において、プロテクター(protectors)という機関の利用が一般化していることが分かった。そこで、この機関について、その創設の経緯、機能等を調査したところ、この機関は、多様な機能を有していることがわかり、その一つとして、受託者の監督機能があるが判明した。 他方、我が国においては、2006年の改正で、従来からの信託管理人制度を見直すとともに、信託監督人、受益者代理人という制度が、新たに信託法に加えられた。これらの制度(機関)は、いずれも受益者の保護、受託者の監督の機能を有する制度・機関である。そこで、2023年1月以降、この制度の詳細な分析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、昨年度に引き続き、我が国信託法におけるガバナンス制度の研究を行う。これは、当初の計画どおりである。この制度を研究の多くは、民法の視点から行われたものであり、組織法(ガバナンス)の観点からの研究は、調べた限り公刊・公表されておらず、新規性があり、海外法制の比較検討の観点でも、必要な研究であると認識している。具体的には、以下の方針を持って、研究を推進する。 まず、2023年度前半は、我が国の信託法において設置が認められている受託者を監督する機能を持った機関制度を分析し、我が国の信託のガバナンス・機関を課題・問題点を考察し、その成果を、取りまとめ公表する予定である。 次に、2023年度後半は、海外の信託では、どのようなガバナンスを構築しているかを調査し、我が国の制度と比較して、前半での研究において明らかにした問題点・課題の解決策を検討する。 なお、海外の信託制度を調査する中で、我が国では明らかにできない事項については、2024年度の現地調査を行い、その事項を明らかにする。そのための現地調査計画を立案する。
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Causes of Carryover |
海外の信託制度について調査を行い、調査事項の絞込みが不十分であったため、早期に適切な文献を見つけることができず、文献購入予算が繰り越しになった。しかし、2022年度末までには、調査対象の適切な絞込みができたので、2023年度は、計画的に必要となる文献を購入する予定である。
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