2022 Fiscal Year Research-status Report
ベルギーの多層的な政治空間における同時並行的な連立交渉の過程と帰結
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22K01350
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
松尾 秀哉 龍谷大学, 法学部, 教授 (50453452)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ベルギー / 連立形成 / 連邦制 / 多極共存型民主主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は初年度で、現地資料の収集を念頭においていたが先方とのアポイントの関係など含めて困難と判断して、多極共存型民主主義モデルの近年の議論の展開を追った。特に最近は連立政権交渉の長期化によって「多極共存型民主主義の変容」論が至る所で主張されており、その点をレビュー、また自分なりに評価することに努めた。またそれを活かして多極共存型民主主義に関するテキスト、一般書も執筆した。 特に「変容論」については、多くの変容論が脱柱状化論やエリートの行動変容、ポピュリストの台頭に注目しているが、本研究においてはいずれも主張の根拠が不十分として「財政の枯渇」に注目した。すなわち、ワロニーとフランデレンを同じように予算配分することを近年では「ワッフル・アイロンの政治」(waffle iron politics)と呼び、それをベルギー政治の秘訣とするものもあるが、逆にいえば、それを不可能にする財政難に対して多極共存型民主主義はぜい弱であることを意味する。加えて連邦制の進展による中央からの財源移譲がその傾向を強めている。すなわち1993年以降さらに二度の憲法改正を経て中央から地方への権限移譲が進み、中央(国家)資源が枯渇している。実際に連邦制導入直後の1995年には中央(連邦)政府支出は、まだ国家財政全体の44.98%を占めていたが、その後も分権化が進み、2018年には35.42%にまで低下している。つまりエリート協調を下支えしてきた財源が枯渇し、財政的にも分権化と地域の自律が促され、大連合が困難になっている。すなわち分権化や連邦化を伴いがちな多極共存型民主主義の鍵である「エリートの協調」は、緊縮政策に弱く、新自由主義の時代において「合意の政治」が、資源の「奪い合い」に代わってしまったのである。新自由主義が良しとされる「奪い合いの政治」が「合意の政治」にとって代わってしまうことを主張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現地に赴いて、じっくりと資料調査ができなかったことが大きい。特にロシアのウクライナ侵攻により渡航代金が上がり、結局当初の予算を越え、他の研究費を合わせても十分な期間の渡航が(夏休みなど)長期休暇にできなかった。渡航費用、滞在費用にかかわる為替の様子を見ながらタイミングを見計らっていたことも、動けなくなった理由の一つであった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の反省を活かして2023年度はすでにアポ、ベルギーへの飛行機、宿を早めに手配している。また、(現在まだ確定していないものの)現首相のスピーチライターなどとのアポイントを試みており、それに合わせて事前の資料調査を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
小さな差額として残ったので、あえて不必要な文具などを購入して消化せず、次年度以降の研究に少しでも生かせればと考えて、わずかであるが、無理をせず差額として残しておきました。
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Research Products
(3 results)