2023 Fiscal Year Research-status Report
琉球列島米国民政府(USCAR)の解体過程にみるグローバル冷戦史のなかの沖縄返還
Project/Area Number |
22K01357
|
Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
吉本 秀子 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (00316142)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 沖縄返還 / 琉球列島米国民政府 / 沖縄返還協定 / 冷戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
1972年の日本復帰後も沖縄県には米軍基地がそのまま残されたことから、沖縄返還とは何だったのかという疑問が提示され続けている。 そのなかで、同年5月の沖縄返還までに解体されたのが、米国の統治組織だった「琉球列島米国民民政府(USCAR)」(以下、「米民政府」とす る)である。本研究は、この統治組織の解体過程に着目し、1)米国政府はそれまで米民政府が担当していた統治業務をどのように仕分けし、日本政府 および沖縄県に移管しようとしたか。2)さらに、その中で日本側に移譲されなかった業務は何だったか。この2点を米国側の一次資料に基づき解明することを目的としたものであった。 2年目にあたる2023年度は、これまでに米国公文書館から持ち帰った米陸軍省の沖縄返還期における資料を分析するとともに、当時の関係者の記した手記・書籍、その他の参考文献の検討を実施した。沖縄返還については多くの先行研究の蓄積があるが、本研究が着目する琉球列島米民政府の実相に関する先行研究が少ない状況にあった。そこで、本研究は、沖縄返還期の米民政府とその上部組織の一次資料に依拠しながら、在沖縄の高等弁務官のもとで統治業務の日本への移管に関する仕分け作業を担当した米民政府の解体過程を記録した文書類を分析した。これにより、米民政府が、米軍の活動を後方で支援しながら、沖縄住民の統治を行うという軍事的色彩の強い行政を行なっていた実態を明らかにすることができた。 その成果として明らかになったのは以下の3点である。1)米国が返還後も日本側に移譲しなかった統治業務があった。2)沖縄返還協定において、日本政府は、米国が統治時代に発令した布告・布令・指令などの軍法類の効力を返還後も存続させることを承認した。3)これにより、日本政府は米国の占領特権の制度化を後押しすることになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに収集した資料の分析により、本研究が目指していた米民政府の解体過程を米国側の一次資料で分析するが可能になった。また、日米双方の資料のデジタル化が当初の予想以上に進み、ネット等で目的の資料を閲覧することが可能になったことも地方に住む研究者としては大きな意味を持つ。日本国内にも米国資料のコピーはあるが、本研究に関しては東京、沖縄まで資料収集に出かけていかなければならなったが、ネット経由で閲覧できるものが増えた。 さらに、本研究の成果の一部として、論文「沖縄返還にみる占領特権の制度化」を執筆、近刊予定の書籍『日本復帰50年 琉球沖縄史の現在地』(東京大学出版会、2024年6月)の一部(第1章の部分)として公表できる見込みである。 また、本研究のもう一つの目的であるグローバル冷戦という枠組みの中で沖縄返還を位置付けるために、二次資料を中心とした検討を行い、沖縄返還がその後の日米関係に与えた影響を分析・考察することができた。その過程で、隣接領域の研究者らと昨年度に続き、交流することができた。グローバル冷戦史からみた沖縄返還と考えるという本研究の当初の目的を踏まえると、前述の分担執筆書の刊行により、隣接領域の研究者と共同で成果を公表できることになったことは意義のあることだと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度にあたる2024年度は、本研究のもう一つの目的であったグローバル冷戦史の中で、米国の沖縄占領統治および沖縄返還が、その後の日米関係と東アジア地域に与えた影響について考察する。これまでに持ち帰った一次資料および関連する二次資料を、返還前の時期に焦点を当てて分析を進めるだけでなく、さらに、第二次世界大戦、特に沖縄戦からの連続的な流れの中で捉え、沖縄戦から続く占領統治が、沖縄返還によってどのように制度化されたか、占領統治の残滓はどのようなものだったのか、について考察を進める。 特に、返還期の資料から見えてくる米民政府の統治政策の実態について、代表研究者が過去に収集してきた資料を含めて分析の対象として、米国の沖縄統治の実相について、さらなる解明を目指していく。 また、代表研究者がこれまでに雑誌論文として公表してきた関連の著作をグローバル冷戦という視野で捉え直すとともに、昨年度までの成果として代表研究者も分担執筆した書籍『日本復帰50年 琉球沖縄史研究の現在地』(歴史学研究会編、東京大学出版会、2024年6月)が刊行予定になったことを受け、この本で共著者から提示されたグローバル冷戦の中の沖縄住民の闘争という視点を踏まえて、本研究の課題である琉球列島米国民政府(USCAR)の存在と返還時における解散、さらに、その歴史的意義を明らかにすることを目指す。
|
Causes of Carryover |
2023年度に海外旅費を予算に計上していたが、個人的な理由により当該年度に海外出張に出かけることが叶わなかった。しかしながら、前年度までに実施した海外調査により、本研究が当初の目的としていた海外資料の収集をひとまず終えることができたため、2023年度は、計画を変更し、その予算を国内での調査旅費と関連書籍の購入費として使用することに変更した。これにより、海外旅費として計上していた予算の方が、実際にかかった国内旅費より多かったことにより、その差額が残額として出る結果となり、その残額を次年度の使用額に変更した。 次年度は、これまでに収集した米国側資料を対になる日本側資料の調査と分析を継続するとともに、新しく収集した資料と、これまでに収集した沖縄統治関係の資料を相互に比較することで、総括的な検討を行う予定である。 さらに、次年度は本研究の最終年度にあたるため、これまでに発表してきた研究成果(雑誌論文)等を大幅修正また加筆するなどした上で、よりグローバルな視点からの考察を加え、総括的な研究成果を広く一般に公表することを目指す。次年度の使用額は、そのための成果公表のための経費として使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)