2022 Fiscal Year Research-status Report
対中共存のための経済安全保障の研究:経済的関与とデカップリングを超えて
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22K01363
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Research Institution | Shonan Institute of Technology |
Principal Investigator |
長谷川 将規 湘南工科大学, 工学部, 教授 (00339798)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 経済安全保障 / エコノミック・ステイトクラフト / デカップリング / TPP(環太平洋パートナーシップ) / 人民元の国際化 / 経済の武器化 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度(2022年度)は、中国、米国、米国の同盟諸国の経済安全保障(安全保障のための経済手段、以下ES)に関連する必要文献・資料の収集とそれらの読解が中心になった。しかし、デジタル通貨(デジタル人民元)のような新しい調査領域が生じたこと、米国の新たな対中政策が情報通信機器、半導体、希少鉱物資源などで次々と展開されたこと、そして、それらに対する中国および米国の同盟国の対応が激動したことなどもあって、必要文献・資料の選別作業も、またその読解(解釈)作業も予想以上に時間がかかった。 とはいえ研究自体は比較的順調に進んでいる。初年度は、本研究課題の中核である中国のESが関連する図書(共同執筆)および論文(単著)をそれぞれ1つずつ執筆した。当初は研究成果を海外学術誌に投稿し、海外学会で発表する予定であったが、コロナ禍による混乱以外に、国内出版社から研究課題の内容に合致した書籍の出版を打診されたこともあり、一冊の学術書として成果を発表することにした。既に出版社側との打ち合わせも終えており、2024年初旬の出版予定で精力的に執筆を進めている。 最終的な完成前であるため、現時点では刊行予定書籍の詳細な内容説明は控えさせていただくが、ESの様々な戦略類型を体系的に整理・分析するとともに、中国がESをどのように駆使しており、それに対して中国近隣諸国や西側諸国がどのようなESで対応しているのか(また対応すべきなのか)を考察するという本研究課題に沿った内容になっている。本研究課題の中核である対中共存(ソフトランディング)の可能性も視野に入れながら、多様な観点から「中国によるES」と「中国に対するES」を考察していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中国と関係国をめぐる経済安全保障(安全保障のための経済手段、以下ES)という現在進行形の事象を扱っているため、また新たにリサーチが必要な新事態が次々に登場したため(例えば、中国を含む世界的な通貨のデジタル化、米国による対中半導体規制の厳格化とそれに対する中国の対応など)、資料の収集・選別作業と読解(解釈)作業に予想以上に時間を取られている。しかしながら、研究自体は着実に進展している。本研究課題に合致する書籍を学術書として刊行することを国内出版社から打診され、その後の打ち合わせも無事に終わり、あとは2024年初旬の刊行を目指して執筆作業を重ねればよい状況になっている。 同書は5つの章から成るが、各章の主要部分の執筆はほぼ終えている。今後は、新しい資料や情報の収集、未読資料の読解などを継続しつつ、新たに得た知見や解釈の変化に応じて加筆・修正を行ったり、自身の主張の裏づけとなる注釈文献の照合や入れ替えを行ったりすることが主な作業になる。 もちろん、冒頭に記したように本研究は現在進行形の事象を多く含んでおり、そのため予期せぬ事態の発生によって研究が一時的に停滞する可能性も皆無とはいえない。しかし、基本的には、2024年初旬の刊行に向けて大きな障害はない状況にある。研究成果の発表方法が海外学術論文から国内学術書の出版に変更になったり、コロナ禍や時間等の問題で聴き取り調査が行えなかったりしたことがあったものの、後者については研究会への出席によって有識者の知見を数多く得ることができたため、大きな障害にはならなかった。研究自体は着実に進められて一定の成果をあげており、研究課題の基盤的な部分は十分に固めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年初旬の学術書の刊行を目指している。既に柱となる5つの章の主要な内容は固まっており、今後は現時点での解釈・分析を覆すような新事実や他の解釈が存在しないかを確認するため、未読資料の収集と読解作業を続けていく。そして、この作業と並行しながら、各章において適宜、修正・加筆を行うとともに、本研究での主張を裏づけるための注釈文献の照合や入れ替え作業も進めていく。 より具体的には、第1章で「経済安全保障(以下ES)」概念をめぐる定義の問題、近年の日本における「経済安全保障」論の高まりなどに触れながら、本研究のESの意味を明確化していく。第2章では、ESの様々な戦略類型について、その特徴、事例、利点と欠点、そのための施策を考察する。 第3章では、中国に対して近年西側諸国で高まっているデカップリング(経済関係の縮小)の動きを、貿易、投資、通貨、技術、資源、人材の観点から調査し、デカップリングのメリットとデメリットを明らかにする。そして、第4章ではかつての米国参加型TPP(環太平洋パートナーシップ)が有していた安全保障上の含意を分析し、米国がTPPに復帰する可能性、中国が新たに参加する可能性について議論する。最後に第5章では、世界的な通貨のデジタル化の趨勢にも目を向けながら、人民元国際化の可能性とそれが有する地政学上の含意、またデジタル人民元の導入がこれらに及ぼしうる影響について考察する。 冒頭に述べたように、今後は本研究課題の学術書の刊行に力点を置くが、研究と刊行が順調に進んだ場合には、当初予定していた海外学術論文の執筆にも挑戦したいと考えている。その場合、内容的には、上記書籍の第3章以降に焦点を当てたものになる予定である。
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Causes of Carryover |
使用金額を3年計画で3分割し、初年度に研究課題の主要部を一気に固める予定で最も大きい使用金額を配分した。しかし、資料の収集と読解を開始する前にまず基礎的な仮説を執筆しておく必要が生じたため、また、必要とする資料の選別に想定よりも時間がかかってしまったり、資料内容が予想外に難解で読解がスムーズに進まなかったりしたため、初年度に計画していたいくつかの研究対象において必要書籍の選別と購入が後回しになってしまった。そのため物品費の利用が計画よりも少なくなった。他に、初年度に予定していた有識者への聴き取り調査が研究会への出席などによって不要になったため、人件費・謝金が利用されなかった。以上の事情から、初年度の使用金額が当初計画よりも少なくなり、次年度使用額が発生した。 次年度は、初年度で遅れていた未読資料の選別・収集・読解作業を加速させるとともに、次年度に計画していたこれらの作業も可能な限り進めたいと考えている。また、その過程で必要が生じれば専門家からの情報収集も行う。読解や執筆作業の停滞による遅れが次年度においても生じる可能性があるが、まずは研究完遂に全力を尽くすべきだと考え、また万一の予算不足に陥ってしまうことを防ぐため、次年度に計画していた予算配分に前年度の残額を合算することにした。 次年度は、上記作業を進めながら本研究課題の学術書の執筆を進め、2024年初旬の刊行を目指す。
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