2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K01375
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
沖村 理史 広島市立大学, 付置研究所, 教授 (50453197)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 気候変動 / 国際制度 / 脱炭素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の対象となる、気候変動ガバナンスの中心となるパリ協定は、米国の不参加や発展途上国への規制の緩さなどの京都議定書の実効力の弱さを改める新たな法的拘束力を持つ国際制度として成立した。各国に自主的な温室効果ガス排出削減目標の設定を求める形で将来の脱炭素を目指すパリ協定のガバナンスと、多様な主体が気候変動や関連する分野で社会経済のグリーン化をめざす持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みの実態調査を行うことを通じて、本研究は脱炭素に向けた国際政治の実態を解明することを目的としている。 研究初年度となる2022年度は、まず気候ガバナンスにおけるパリ協定の位置づけを文献調査に基づき分析を行い、国連気候変動枠組条約体制の実効性と題する論文としてまとめ、査読を経て発表した。実態調査に関しては、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)に参加し、政府間交渉で議論されている脱炭素への道筋の評価過程、及び交渉における主要国のスタンスについて情報収集を行った。また、エネルギー分野では再生可能エネルギーへの導入目標や、ガソリン車の新車販売を制限する工程表が欧米の各国で発表されており、関連する企業は、SDGsへの対応に加えて各国政府で議論されているエネルギー関連目標に対応する必要性があり、これらの動向に関する資料収集も行った。さらに、研究計画調書作成時に想定していなかったロシアのウクライナ侵攻により大きな影響を受けた国際エネルギー市場の動向が、どのように各国の脱炭素目標に影響を与えるかについての資料収集も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の申請時に提出した研究計画調書では、本研究課題の核心をなす学術的「問い」として三つの問いを示した。研究計画調書では、気候ガバナンスの特徴を分析する第三の問いの予備的検討はすでに進めており、本格的な分析を2022年度に行うと記載した。2022年度は国連気候変動枠組条約体制の実効性と題して、パリ協定に基づく気候ガバナンスの特徴を分析内容を論文としてまとめ、査読を経て発表した。また、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)にも参加し、パリ協定下の気候ガバナンスの交渉と関連アクターの様々な行動について参与観察するとともに、気候変動政策に関する多くの論文を掲載している学術雑誌を購入し、最新の状況について情報収集に努めるなど、次年度以降の分析につながる実態調査や資料収集を進めている。 このように、本研究の申請時に示した適切な調査と成果の発表を行うことができているため、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、国連気候変動枠組条約締約国会議に参加し、脱炭素に向けた気候ガバナンスの行方をその最前線で調査する。具体的には、政府間交渉の内容を参与観察すると同時に、締約国会議に参加している主要なステークホルダーの主張に関する情報収集を行う。同時並行して、主要なステークホルダーの脱炭素に向けた動きについても文献調査を行う。これにより、転換期の気候ガバナンスの在り方について、現時点での一定の見解をまとめ、評価分析を進める予定である。 2023年度は、昨年度に引き続き、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に参加する予定である。COP28では、パリ協定の規定に基づき、各国が定めた目標の世界全体の進捗状況を評価するグローバル・ストックテイクが行われる。5年に一度のペースで開催されるグローバル・ストックテイクでは、パリ協定が設定した長期目標(2度目標や1.5度目標)に対する現状の取り組みの評価を行うので、この評価がどのように脱炭素に向けた国際政治に影響を与えるか、参与観察する。また、同時並行して気候ガバナンスや国内、地域レベルでの脱炭素に向けた取り組みに関する文献調査も行う。さらに、研究計画調書で研究目的の一つとして設定した、気候ガバナンスにおけるガバナンス・システムの特徴の国際関係理論における位置づけを分析し、その結果を学会発表する予定である。したがって、研究費の多くは旅費に用いられ、一部は文献調査に必要な書籍、論文購入に充てる予定である。
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Causes of Carryover |
海外調査に必要な旅費が近年高騰しており、高額な旅費による予算不足が懸念されることから、2022年度予算では意図的に執行を抑制した。さらに当初本研究で経費を負担して参加する予定であった海外出張が、他の研究費で経費を負担することができたため、次年度使用額が生じた。これらの理由から生じた次年度使用額の一部は、2023年度にアラブ首長国連邦のドバイで開催される国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に参加する際の高額な旅費に充当する予定である。本研究は、基金によって行われているため、このような外的条件の変化にも柔軟に対応することができ、複数年度にわたる研究計画を遂行する上で大変ありがたく感じている。
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Research Products
(1 results)