2022 Fiscal Year Research-status Report
Caribbean Claims for Reparations for Slavery and Colonialism: A Transformative Redress Approach
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22K01378
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
熊谷 奈緒子 青山学院大学, 地球社会共生学部, 教授 (10598668)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | CARICOM(カリブ共同体) / CARICOM Ten Point Plan / 歴史的不正義の是正 / イギリス / オランダ / 変容的救済 |
Outline of Annual Research Achievements |
カリブ海諸国が、カリブ共同体(CARICOM)という地域機構として、かつての奴隷貿易、奴隷制、植民地支配に対する謝罪と補償を、英国やオランダなどに求めている現状と関連議論を追い、整理した。 これまでの議論としては、歴史的不正義の是正の問題提起は、援助要求の外交カードの表れにすぎないという議論がある。また、現在のカリブ諸国における発展途上や貧困は、奴隷制のみが原因とはいえないという議論や、CARICOM諸国社会内の声も一枚岩ではないなどの指摘もある。 しかし一方で、CARICOMが公式謝罪や賠償を求めて2014年に発表した「補償的正義の10項目計画」は、様々な派生的な動きを非政府主体や個人、そして政府にも及ぼしていることが明らかになった。2015年にはInstitute of the Black World 21st Centuryによる補償要求の国際大会が開催された。またSlavery Past Dialogueの諮問機関が作成したChains of the Pastは、2022年12月にオランダのルッテ首相が、奴隷貿易と奴隷制を「人道に対する罪」と捉え、オランダのかつての奴隷貿易と奴隷制について謝罪した契機となったと考えられている。BBCのジャーナリストであるLaura Trevelyanは、2023年に奴隷の子孫としてグレナダに謝罪をし、謝罪要求活動(Heirs of Slavery)に参加するようになった。 このような動きは、歴史的不正義の是正の核心をめぐる議論にも発展している。英政府は、補償よりも構造的な不平等の問題へ取り組むとする。これには批判もあるが、「変容的救済」の考えに沿った根本的問題解決になりうると考えられると本研究者は位置づける。不平等の再生産を生む制度や言説の改革を通じてこそ正義は回復され、被害者と子孫の尊厳回復につながり、貧困は解決し得るということである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍により、これ以前の研究のフィールド調査が今年度にずれ込んだために、カリブ海諸国への現地調査に行くことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
カリブ海諸国への現地調査、聞き取りを行い、学会発表でのフィードバックを通じて、理論、実証両方における研究強化を目指す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、以前のプロジェクトのフィールド調査が22年度にずれ込んだために、本研究で当初予定していたフィールド調査を実施できなかったため。
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