2022 Fiscal Year Research-status Report
ブロックチェーン合意形成プロトコルのゲーム理論的安定性について
Project/Area Number |
22K01406
|
Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
野口 光宣 名城大学, 経済学部, 教授 (00208331)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | ブロックチェーンゲーム / ブロックチェーンとゲーム理論 / プールマイニングと協力ゲーム |
Outline of Annual Research Achievements |
1)ビットコインのブロックチェーンでは、未使用残高の所有権の証明や取引記録の真正性の検証に、楕円曲線暗号技術に基づく電子署名が用いられる。この基盤技術ともいえる、暗号技術の仕組みを理解するには、有限体の理論やガロア理論の知識が不可欠となる。その認識の下、有限群論から無限次ガロア拡大までを網羅する、自己完結的で、かつ、ゲーム理論研究向けの解説書(原稿段階)を作成した。 2)トランザクションの作成から、署名およびその追加、そして署名検証に至るまでの一連の処理を、通常のWindows環境でシミュレーションするための手順やソースコードを整理した。ビットコインの開発・実験用のテストネットと、オブジェクト指向言語およびそのライブラリーを用いて、エンジニア交流サイト等に分散する情報を参考にしながら作業を進めた。一連の流れを体系的にまとめることができたので、トランザクション処理の仕組みや問題点を理解するための、経済学者向けの解説書の下地として使う予定である。 3)ゲームの定義式が微小に変化しても、解の様子は大きく変動しないという意味でのいわゆる概安定性は、単なる均衡解存在という意味での安定性を超えた、いわばゲームのシステム的安定性であり、ゲーム理論の予測信頼性(測定誤差耐性)の根拠ともなり得る重要な性質である。これまでの、筆者のアプローチによる概安定性の証明には、積確率分布のディスインテグレーションの理論が不可欠であり、これに関してはHofmann-Jorgensen(1971)が標準的な理論であるが、戦略空間のラドン性、ディスインテグレーションの概確定性といった制約があるので、根本から研究しなおす必要がある。関連する論文を精査したところ、有用な証明や理論が種々の論文に分散していたので、それらを系統的にまとめてみた(将来、内容拡充の上公表予定)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の2022年度計画では、ブロックチェーンに関する情報工学視点での論文を精査することにより、マイニングを正規型ゲームのフレームワークでとらえる場合の、戦略、ペイオフ、情報として、何が適当かを明らかにすることになっていた。しかし、スタートして間もなく、上記目的達成のためには、ブロックチェーン・システム全体の仕組みを理解することが不可欠との認識に至った。そこで、いったん論文精査を中断し、実際のビットコインメインネットワークのAPIや、オブジェクト指向言語による実装を用いて、マイニングの各ステップを仮想的に体験しながら、マイナーがシステムから得る情報や、プール形成する場合の共有情報などについて理解を深化することにした。手始めに、楕円曲線暗号に代表される暗号技術、また、ソースコードの解析や自らによるコーディングのために、Python やRuby等のオブジェクト指向プログラミング言語の習熟に努めた。また、ブロックチェーンで利用されている暗号技術の理解のため、群論やガロア理論の習熟に時間を投じた。現時点で、ブロックチェーン技術を支える理論の全容が理解できたので、本年度は当初予定していたブロックチェーンの正規型ゲームとしての定式化を完成させ、競争と協力の両側面を有するハイブリッド均衡解の存在証明にチャレンジするつもりである。
|
Strategy for Future Research Activity |
マイナーのゲーム戦略空間、利得関数、情報等の数学的モデル化を完了し、まず、有限マイナーと完備対称情報の仮定の下でハイブリッド均衡解の存在証明を試みる。次に私的情報を導入し、情報依存型の混合戦略の枠組みで、ハイブリッド均衡解の存在証明を試みる。それが困難な場合、状態空間と戦略空間の積空間上の結合分布としてのハイブリッド均衡解の存在証明にチャレンジし、うまく行った場合には、2022年度に実施した、ディスインテグレーション理論の深化より得た知見を用いて、結合分布解から情報依存型混合戦略解を得て、さらに、その解の純粋戦略化が可能かどうか調べる。その後は当初計画通り、マイナー集合を連続無限化して、現実のマイナーの不特定多数性を反映させたモデルにおける、ハイブリッド均衡解の存在証明を試みる。最終段階では、均衡解の存在という意味でのゲーム理論的安定性を超えた、ゲームのシステム的安定性について考察を進める。ここでいうシステム的安定性とは、ゲームの定義パラメーターの微小変動に対して、均衡解の様子が安定であるという意味でのものを意味する。
|
Causes of Carryover |
当初は、研究遂行のために、ビットコインのメインネットワークに実際にノードとして接続する必要があると考え、ビットコイン・コアをダウンロードするために、新規に高性能PCを購入する必要があると考えていた。しかし、作業を進める中で、Ruby等のオブジェクト指向言語がブロックチェーン関連のライブラリーを豊富にそろえており、ビットコイン・コアのAPIを利用して、テストネットから生トランザクションデータを取得する等が可能なことが分かった。さらに、トランザクション作成、署名、署名検証等、未使用残高の使用やマイニングの各段階を、対応するソースコードを確認しながらシミュレーションできることが分かり、本研究にとっては、既存のPCで十分対応可能であることが分かった。その結果、当初予定していたPCの新規購入は不要となった。また、新型コロナ感染の影響と、副学長・理事職が多忙を極め、海外学会参加が困難となったため、予定していた旅費が不要となった。プログラミング言語の習得や、暗号技術、ネットワーク理論等、専門外の知識を身につけるのに、相当の時間を費やした。 今年度以降は、所属機関の新型コロナ活動制限が解除されたこともあり、海外の学会に参加して、研究成果の発表をしたいと考えている。論文作成上必要となる洋書購入とソフトウエア購入、そして、海外渡航のために次年度使用部分を充てる予定である。
|