2023 Fiscal Year Research-status Report
ブロックチェーン合意形成プロトコルのゲーム理論的安定性について
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22K01406
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
野口 光宣 名城大学, 経済学部, 教授 (00208331)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ブロックチェーン / 仮想通貨 / 暗号通貨 / マイニング / ゲーム理論 / ナッシュ均衡 / ギャップゲーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マイナーが、電気代等のコストを考慮して、マイニング開始を遅延させる(ギャップ形成)状況について分析した。ギャップ均衡の存在は、標準プロトコルに忠実なマイニングが、必ずしも最適行動ではないことを意味する。よって、本研究は現在の修正後研究目的に沿ったものとなる。以下は研究実績の具体的内容である。 1)ギャップゲームにナッシュ型の均衡概念を導入し、二人マイナーモデルにおける非対称ギャップ均衡(電気代等格差下)および対象ギャップ均衡を具体的に導出した。 2)取引手数料が多く、電気代等格差があるとき、低コストマイナーの方が均衡において短いギャップを選び、マイニング報酬が手数料のみの場合はこの傾向がより顕著になることを示した。電気代等格差がない場合、ブロック報酬を増やすことでギャップ形成を抑制し、システムの安全性を高められるとするシミュレーション結果があるが、電気代等格差がある場合には成り立たないことを証明した。 3)手数料収入比率が高く、電気代等が均一の時、ブロック報酬が高いほど、より短いギャップが選ばれることを示した。また、均一の電気代等が高いほど、長いギャップが選ばれることも示した。これらの結論はほぼ既知のシミュレーション結果と合致するが、ブロック報酬が正で、電気代等が無料の場合には、全マイナーがギャップ形成するという、異なった結果を得た。 4)マイニング報酬がブロック報酬だけの場合は、ギャップなしが均衡となることを証明した。 5)Carlsten (2016) らは、不十分なブロック報酬はギャップ形成を誘発し、その結果システム全体の潜在的ハッシュ計算力を低下させると主張した。本研究は厳密な数学的分析により、マイニング報酬が手数料だけの場合のハッシュ計算力低下率を機器保有コストと電気代等の関数として表すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究開始にあたっての目標は、ブロックチェーン(BC)の標準プロトコルの指定する、最長チェーンマイニングがマイナーにとって誘因整合的となる条件を、協力、非協力の両面から、ゲーム理論的に解明することであった。上記の誘因整合性は、BCが実装されて以来、BCコミュニティーの中で証明抜きの信念とされているもので、誘因整合性→すべてのマイナーがプロトコル通りに行動→例外的な利己的マイニングは最長チェーンに対して勝率ゼロなので、非合理的行動となる、という内容の漠然とした信念である。本研究の初期においては、チェーン選択をゲーム戦略ととらえ、最長チェーン選択が協力あるいは非協力ゲームの枠組みで、何らかの均衡概念に当てはまると予想した。Kroll(2013)らによる、この観点での先行研究が見つかったが、結論は厳密さを欠き、直観的議論によるものだった。そして、一時点におけるチェーンの集合を戦略空間とすること自体に無理があることが判明した。 その後、研究方針を修正し、最長チェーンマイニングがマイナーにとって誘因整合的とはならない状況について分析することにした。これは、利己的なマイニングが利得獲得上優位になる状況なので、何らかの理由で、システム全体のハッシュ計算力が低下し、その結果、相対的にハッシュ計算力の高いマイナーの独占的な振る舞いを許容する状況ともいえる。Tsabery & Eyal (2018)は、シミュレーションベースではあったが、先行研究の中で、初めて正規型ゲームの形式を導入した。また、マイナーが均衡において、マイニング開始時間を遅延させ(ギャップ形成)、その分システム全体のハッシュ計算力が低下する可能性を問題にするので、シミュレーション用に導入されたモデルを数学的に厳密化することにより、当初計画にあった、マイニングの正規型ゲームとしての定式化と上記の新規目的を同時に達成できると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初研究目的の修正に伴い、今後は正規型有限プレーヤーゲームとして定式化されたギャップゲームの非協力的均衡概念、および、各種パラメーター(ブロック報酬、手数料収入、機器保有費用、電気代)と均衡解の関係について研究することにした。ギャップゲームの定式化は様々な数学的困難を有するので、多くの先行研究はシミュレーションを用いた分析に終始している。 ブロック報酬の原資となる仮想通貨発行額はシステム開始当初に決められており、一定期間経過後に発行残高が半減するように(インフレ防止策)、システムはマイニング難易度μを調整する。そして、マイナーはμを全員共通の成功比率として、マイニングをベルヌーイ試行として行う。この時、ギャップ形成はマイニングスピードに影響するので、事前難易度μを前提にして導かれたギャップ均衡解s*(μ)による事後難易度が、μと不整合になる可能性がある。したがって、均衡解s*(μ)として、事前難易度と事後難易度が一致するようなものを見出す必要が出てくる。さらに、ゲーム終了時点(マイニング成功者が1人出現する時点)の確率密度関数もマイナー全員の開始時刻sに依存する複雑な形を持つので、そのような密度関数による積分を実行して、解析可能な期待利得関数U(s)を得るのは至難の業であった。しかし、マイナー数を二人に制限すると、上記積分が条件付きで実行でき、さらに代数的な工夫を行うことで、ギャップ均衡解s*(μ)の具体的関数形を導出することができた。その結果、解の厳密な数学的解析が可能となり、先行研究のシミュレーション結果について数学的検証を行うことができた。 今後は、マイナー数のn人への一般化にチャレンジする。さらに、マイナーの協力的行動にも焦点をあて、競争と協力のハイブリッド均衡の存在、そして、マイナー集合の無限集合化と、私的情報(タイプ)についても、当初計画通り考察していきたい。
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Causes of Carryover |
令和4年度に任期満了予定であった副学長・理事職が本研究課題の最終年度(本研究代表者の退職年度)まで、さらに2年間延長されることになった。加えて通常の教育業務もあり、当初予定していた国際会議参加等が事実上不可能になった。最終年度である令和6年度には、海外の学会に参加して、研究成果を発表したいと考えている。また、研究室で使用しているPCに不具合が生じているので、早期に新機種を購入し、最新成果についての論文執筆に使用する予定である。
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Remarks |
名城大学経済学部ディスカッション・ペーパー. #0017 (Aug. 2023)
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